- 狂気(SACD-Hybrid)

●「狂気(The Dark Side Of The Moon)」~ピンク・フロイド(Pink Floyd)
1973年発売
ピンク・フロイド は,イギリス出身のプログレッシブ・ロック・バンド。
実験的な音楽性やスペクタクル性に富んだライブ,現代社会における人間疎外や政治問題をテーマにした文学的・哲学的な歌詞で人気を博した。
芸術面で高い評価を得ながらメガ・セールスを記録した稀有なバンドである。
クラシックやジャズの素養を持った技巧派の奏者が多いプログレッシブ・ロックの中にあって,ブルースを出発点とする(結成当初はブルース・バンドだった)彼らの演奏技術は細かい符割りや変拍子とは無縁であるが,その音楽は独自の浮遊感・陶酔感を湛えている。
この1973年発表のアルバム『狂気』は,芸術性と大衆性を高い次元で融合させ、商業的にも成功した金字塔的な作品であった。
この成功が余りに巨大であったため,以降彼らは新作を制作する度に大変な重圧と戦うこととなる(そんな中で、『炎~あなたがここにいてほしい』や『ザ・ウォール』といった名盤を残している)。
内省的なテーマを扱い,前衛的な要素も取り込みながら,常識外れのセールスを記録したこの作品は,プログレッシブ・ロック(或いは、パンク・ロック以前の黄金時代のロック全般)の一つの到達点・飽和点とも言える。
アルバムの内容としては,哲学的な歌詞に加え,それを際立たせる立体的な音作りで,極めて完成度の高い作品に仕上がっている。
特に,アラン・パーソンズが編集したSE(効果音)の巧みな使い方によって,うまくストーリーを演出している。
笑い声,会話,爆発音,時計の針,レジスター,心臓の鼓動(実際はニック・メイスンのドラム)等が使われている。
サンプラーは無かったため,録音した音をひとつひとつテープに貼り付けるという原始的な手法で組み立てられた。
アラン・パーソンズによれば,マネーの冒頭で聴かれるレジスターの音は編集に30日要したと言う。
曲と曲のあいだに空間が無く,基本的に全楽曲が繋がっており,流れるような展開でアルバムは進んでいく。
その中で主人公の誕生から苦悩,葛藤などを描き出している。
作品中では主人公はYouと記されているだけだが,狂気の人となってしまったシド・バレットの姿も重ねられていると言われている。
エンディングでは,Gerry O'Driscollによる「There is no dark side of the moon really. Matter of fact it's all dark(本当は月の暗い側なんて存在しないんだよ。何故なら,すべてが闇そのものだからね)」という台詞(つまり,実際は何もかもただ「明るい」のは「ただ太陽の光が当たっているだけ」で「暗い側」も「明るい側」もないということである。なお,この科白はレベルを下げて録音されているため,音量をかなり上げないと聞き取れない。)が入っており,核心的な一言でアルバムは終わりを告げる(さらにボリュームを上げると台詞から音がフェードアウトする間に,バイオリンと思われる楽器による演奏が右スピーカー側からかすかに流れる)。
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