はやぶさの友だち(終)

A君はとても純粋な男やった。
「ぼくは星が好きだから宇宙の
研究がしたい」と,それこそ
目を星みたいにきらきら
させてゆっとった。

実は星が好きなやつはようけ
おるんや。ぼくも子供の時は
好きやった。
宇宙の研究をしたいやつも
ようけおる。ぼくも高校一年の
ときはそんな風に思てた。

大学のとき,宇宙の研究を
したいとゆうA君を見てぼくが
どう思ってたか・・・。
ひょっとしたらちょっと
馬鹿にしてたかもしらん。
「いつまでそんなこと
ゆうてるんやろ。子供
じゃあるまいし」とかな。

それから20数年たってA君は
はやぶさのチームリーダーで
ぼくは・・・。

だから・・・。
夢のパワー,けっこう馬鹿に
ならんのやで。いや,ほんと。
べんきょお,しないよりは
しておいた方がええで。
森高千里もそうゆうてるやろ。
(誰かわからん?江口洋介の
かみさんや)

久しぶりにA君に連絡
とってみようかな。
「いま京都で教師してんねん。
気持ちだけはA君に負けない
ように,がんばってるで」って。

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はやぶさの友だち(2)

雨がじゃんじゃん降っとるな。
鴨川の水が茶っ茶色になってぐんぐん
流れとった。落ちたら死ぬで。きおつけてな。

さて二十年前の話…。
のちに「はやぶさ」の一部門の
リーダーとなるA君とぼくは
大学のサークルで出会った。
コーラスサークルや。らららって
歌うやつ。

じつをゆうとぼくは高校のころ
合唱部員やった。ちょっと続けて
みよかと思ってサークル入ったんやな。

しかし夏前には辞めとった。今さら
コーラスでもないかと思ったんやな。
若いとゆうのはごおまんなもんや。
今にして思えば別にコーラスの
何が悪いんでもないのにな。

同じことがコーラスの同期の
仲間との関係でも言えた。
そのサークルは理系の学生が多かった。
だからどうと言うのではないん
やけど,ぼくは典型的文系で,
ちょこっと屈折して
大人ぶりたいお年頃やったから,
なんか綺麗な瞳をした理系の
学生との付き合いが物足りなく
感じたんやな。

そんなわけで早々にサークルを辞めた
ぼくやが,彼らは特にわだかまりもなく
それからもキャンパスで会えば声を
かけてくれ,飲み会には呼んでくれ,
ぼくもまた遠慮もなく押しかけ。
卒業後しばらくしてもまだ付き合いは
続いた。だからぼくはA君の結婚式にも
出てるんや。お相手は同じサークルの
かわいい娘やったで。

(続く)

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はやぶさの友だち(1)

意外なとこで昔の知り合いに会うって
驚くもんや。
「お?あ,あ,」なんてゆってるうちに
もう後姿は遠ざかり・・・なんてことも
ある。

中年になると,新聞とかテレビに知り合い
がいきなり登場・・・なんて経験もあるで。
悪いことして捕まってたり,てゆうのは
まだないけど,選挙に出ちゃった,とかな。
落ちたけど。

ちょっとしたことでインタビューされてた
とか。小説家とか漫画家デビューした
てのもあった。あまり売れた人
おらんけどな。

最近いちばん驚いたんは・・・。
「はやぶさ」ってあるやろ。小惑星イトカワ
を探査して戻ってきた。結構大ニュースに
なって映画化もされるらしい。

ちょっと僕も興味あって本読んどった。
「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」
てゆう本や。

この本ははやぶさチームのエンジンとか
資料分析とか着陸装置とかカメラとかの
各部門のリーダー格の科学者たちが
一章ずつ,どんな技術が使われとったか,
はやぶさの旅の間にどんなトラブルが
あってどう乗り越えたかとか詳しく
書いている。

それを見とったら,一章を受け持っとる
科学者の名前に見覚えがあるんや。
似顔絵がついとったんで間違いない。
「A君や」

A君。彼は大学時代の友達やった。
今を去ること20年以上昔の話や・・・。
(こっから回想シーンやで)

(続く)

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結局どの通りが いちばんエライのか(終)

西大路を一目見たいという思いが
天に通じたんやろか。今日ちょっとだけ
西大路を見たんや。

昨日からのフレッシュマンキャンプの引率
をして帰りのバス。楽しい&盛りだくさんの
キャンプの疲れでバスの中はみんな
ぐっすりや。

ぼくも寝とったけど,ふと目を覚ますと
「西大路五条」の交差点表示が見えたんや。

もう目がぱかーっと開いて道の様子を
見逃さんようにじっくり見た。さっすが
西の巨人。厳正なる審査で
キング・オブ・キョウト・ストリート
に選ばれただけのことはある。その
とうとうたる流れは鴨川顔負けやったで。

ちょっと話は変わるけど,先日盗まれた
自転車の後継機を買うたんや。車輪の
直径は26インチから27インチにアップ。
ブラックボデーの憎いヤツ。
以前は中古やったが,今度はぴっかぴかの
新車や。足回りも大幅に向上したで。
「ブラックデビル号」と名づけたった。

今度また自転車で西大路の魅力を
レポートするつもりや。楽しみに
待っててな。

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結局どの通りが いちばんエライのか(4)

東大路君のふるまいに,王者に
ふさわしくない部分が
ちらほらあるとゆうことで
結局京都でいちばんエライ通りは
西大路やとゆうことになる。
おめでとう西大路君。

これはファイナルアンサーなんや。
事実は事実として動かせん。
しかしそれはそれとして,人の心
ちゅうもんは別にあるもんや。
まあゆうたら,「正直ちょっと,
地味やなあ」とゆう気分はあるで。

たとえるならば,芸能人水泳大会で
地味なユニット
(”太陽とシスコムーン”とか)
の誰も名前も知らんメンバーが
優勝してもうた。
あるいは世界最強の男を決める
デスマッチでシベリアから来た
木こりのイワノフさんが優勝して
しまった。

いや,イワノフさんはいい人なんや。
村の誰にでも慕われとる,とても
立派な人なんよ。人間として
見た場合,イワノフさんに何も
問題なんかないんや。でも・・・。

要するに視聴者てのは勝手なもんや。
どん欲にドラマを求める。
イワノフさんにはちょっと,その
ドラマ性てやつが欠けとるんよ。

厳正なる結果と,ドラマ性を求める
視聴者の声。それを両立させるには
どうしたらええのか。

それはドラマを発掘することやないか。
僕はそうひらめいた。
シベリアにドラマがないわけではない。
発掘されてへんだけなんや。
探せばきっと何かあるはず。

同じように,西大路にだってきっと,
王者の座にふさわしい何かがあるに
違いないんや。誰も西大路に
行ったことがないから,
わからへんだけや。

こうして僕は,西大路の魅力を
探しに出かけることを心に
誓ったんや。
(続く)

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結局どの通りが いちばんエライのか(3)

京都市中心部では負けなしの四条通。
しかし,ちょっと西に視点を移すと目を
疑うような事態が。

四条通の栄光は四条大宮まで。
そこからちょっと西に行くと,
壬生川通にまさかの敗退(壬生川通四条)。
そこからはもう,御前通四条,
西大路四条,西小路四条,葛野大路四条…。
いったい何かあったのか
人が変わったような負けっぷりや。

やっぱ烏丸通りとの死闘は
彼の体を根底から蝕んでいたんやろう。
力尽き,傷ついた四条通り。
全盛期の力はもうない。
今はゆっくり休め
そうゆうてやりたい。

しかし,勝負の世界は非情や。
四条君があかんとなると,チャンピオンは
いったい誰なんや。関心はそこに集まる。

そこで浮上するんが東西の王者。
東大路と西大路や。どっちも
交差点でほかの通りに全勝の成績を
残しとる。

どっちかゆうと歴史と風格で
東大路の方が格上か。
しかしそのぶんいろいろ疑惑もあるで。

疑問の一つは名前やな。東大路は交差点になると
名前が変わる。東山を名乗うてるんや。
(東山三条,東山丸太町など)
これは昔の名前やな。昔は東山通りと
ゆうたんや。何で今の名前で勝負せんのや。
疑問は残るで。

もう一つの疑問は四条通との勝負を
避けとるところや。四条通りとの交差点は
八坂神社の手前で,T字路になっとる。
そしてその名は「祇園交差点」や。

全国的に有名な地名であって,
文句の付けようもない。しかし
四条通との勝負とゆう点からゆうと
どうも釈然とせん感じはあるで。
 これじゃどっちが強いかわからん。
敵前逃亡したんやないか。

こうした様子を見ると,どうもこの
東大路っちゅうのは,昔の名前に
すがり,ガチンコ勝負を避けることで
王者の地位にとどまり続ける,そんな
やつに見えてきてしょうがない。
(続く)

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結局どの通りが いちばんエライのか(2)

いっつもぼくが,お世話になってる堀川通り。
車が行き交う大動脈やけど,じゃっかん
華やかさには欠けるという印象もある。

しかし,「交差点で名前が先に来る通りが
エライ」とゆうルールで見ていくと,
結構えらいもんなんやで。
まずそこらへんの通りには負けない。
地図で交差点の名前を見てくと
堀川北大路,堀川今出川,堀川丸太町など
連戦連勝という感じ。

同じぐらい太い御池通り,牛若丸と弁慶の
エピソード以来,超メジャーな五条通り
にも圧勝。
堀川御池,堀川五条。

ところが意外な伏兵がいた。
京都駅前を東西に走る七条通りや。
七条堀川。どうも七条通りはかなりえらい
らしい。あのメジャー繁華街・河原町通りをも
軍門に下している。七条河原町。

ところが。その七条をものともしないのは烏丸通りや。
やっぱ御苑の横を走る風格やろうか。烏丸七条。

しかし。その烏丸通りに待ったを
かける強敵がいた。
そう,四条通りや。

烏丸通りと四条通りの力比べは、まさに
京都の通りの王者決定戦とゆうにふさわしい。
がっぷり四つ,五分と五分の戦いに
勝利を収めたのは四条通り。四乗烏丸は
まさにキング・オブ・交差点。行き交う人の
多さといい,銀行やデパートに囲まれた
環境といい,セレブそのものや。

それでは京都でいちばんエライのは
四条通りでOK? アー・ユー・ショア?

ところが,そう簡単に問屋は卸さないんで
あった。
(続く)

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結局どの通りが いちばんエライのか(1)

京都にはいろんな通りがあるな。おっきな通り,ちっさな
通り,メジャーな通り,マイナーな通り…。

その間には細かい序列があるようや。それを感じるのは交差点
やな。

京都の交差点は,東京とちごうて,ただの交差点ではない。
京都では交差点は,住所の役割を兼ねる。
とても重要なもんや。

その呼び方やけど南北の通りが先に来るか,それとも東西か。
特に決まりはないようやな。
南北が先に来ることもあれば――(例:河原町今出川)
東西が先に来ることもある――(例:七条堀川)

東京から来て以来,このことをずっと,不思議におもっとった
けど,
ふと気づいたんや。「どうもえらい方が先なんやな」

「えらい」とは,ようするに,みんなの
心の中に占める存在感。
「河原町通りと今出川通りでは,やっぱ河原町通りの方が
メジャーやろう」
そう思う人の方が多ければ,自然と「河原町今出川」
と呼ばれるようになる。
「今出川河原町」では人を納得させられないんや。

つまり,「どっちの名前が先か」を見れば,どっちの通りの
方が「えらい」か,
決めることができるわけや。
(続く)

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ある夜のバス

京都はバスが便利やな。こんなにしょっちゅうバスに乗ることは
人生でこれまでなかったほどや。

最寄りのバス停は結構人が降りる。それで帰りなんか,たいていだれか
ひとが降車ボタンを押してくれるわけや。

基本めんどくさがりなんで,指一本でも動かしたくない。特に夜は
疲れてるやろ。

ある夜,一つ前のバス停を過ぎて,「次は~~~」て
アナウンスがあったのに,だあれも押さへん。

「おかしいな。だれかいるはずや」。じ~っと待ってたんやけど
ほんまにだれも押さないんや。その時バスの中には10人くらい
いた。結構メジャーなバス停なんで,10人もいて自分しか
次で降りないってこと,ないはずなんや。だれかいるはず。

バスは最後のコーナーを曲がっていよいよバス停に近づく。
あと100メートル,あと50メートル,30メートル…。

「ぶーっ」。ついに押してもた。負けた。自分の弱さに。

しかたない。たまたまだれも,降りる人がいなかったんや。
とぼとぼと肩を落として出口へ歩いたら…。

もう一人後ろからついてくる兄ちゃんがいるやんけ。若い大学生の
メガネかけた男や。

自分に負けたと思てたら,自分にではなく,この兄ちゃんに負けたんや。
「なんやねん,こいつ怠け者が。降車ボタンぐらい自分で押せや」
と無性に腹が立ったで。

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自転車ぬすまれた

映画を見に行ったんや。「婚前特急」てゆう,まあしょうもない
コメディやったけどそこそこ面白かった。

それで寺町通りの横にちょこっと路駐しとったけどそれが
あかんかった。なくなってたわ。道の脇んとこ見たら
撤去自転車の引き取りについて看板が出てた。千本三条
まで行かなあかん。めんどくさい。

翌日しょうがないから取りにいったやんか。そしたら
そこのおっちゃんが「昨日は撤去はしませんでしたよ」てゆうんや。

あちゃあ。撤去やないということは,盗まれたんやな。
念のためもう一回戻ってみたけどやっぱり無かった。

京都に来てから買った,まだ一か月しか乗ってない。
中古で一万もしなかったけど,それでも惜しい。
せっかくこれから一緒にいろんなとこ行こう思てたのに。

よい子のみんな,路駐はあかんで。気をつけてな。

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