あずたん、アワードに行く~4~

 「あれ、なつみー?」

 ふいに呼びかけられて、流れていた空気が一瞬、ストップする。
 指名されたなつみさんはというと、先ほどの熱さが残るのか、赤くなった舌先をちょこんと出したまま、視線をさ迷わせた。

 「え、だれー?」

 くるくるあちこち見まわす姿は、初めて会った時そのもの。
 ハイテンションモードが、再び頭をもたげ始めたようだった。

 「だっれですかー?」

 ニコニコしながら呼ぶ姿は、まるでとんでもない速さを突っ走る車のよう。あずさは内心、この人、コンピュータ習うより自動車制御学科で制御してもらった方がいいんじゃない、なんて毒づきそうになってしまった。

 もちろん、優等生キャラな自分にそんな無謀なことはできないのだけれど。

 あずさは自身の好奇心も頭をもたげ始めたのを感じながら、相手を特定したなつみさんの視線を辿って、公園の脇道を見つめた。

 一方、隣に座る佐織ちゃんはというと。

 「わわっ、早く食べなくちゃ………んぐっ!?」

 面識のない人の登場を前に、のんびりハンバーガーをパクついているわけにはいかないと思ったのか、大きくかじって飲み込んで、ついでに喉につまらせてしまっていた。

 まったく、抜けているというか何というか―。

 あずさは苦笑いしながら、佐織に自分のグレープジュースを差し出す。

 「はい、佐織ちゃん」

 「ありがとぉー……」

 消え入りそうな声を出して、カップを傾ける佐織ちゃんに軽く笑み、あずさは視線をかの人に戻す。

 類は友を呼ぶ――と言ったら、失礼かもしれないけれど、彼もなつみさんと似たようなジャンルで、なおかつ、あずさがこれまでテレビでしか見たことがなかったタイプの人だった。

 ピアスだらけの耳に、重力なんてまるで無視といわんばかりに天に向かってそそり立つ金髪、そしてどこかのロック歌手のような風貌―。

 あぁ、なんて面白そうな人なのだろう。
 あずさはまたもや、こうした楽しげな人と容易く知りあっていく親友を心から羨ましく思っていた。

 『佐織ちゃんの人生って、ホント“面白い”があふれすぎなのよ――!』

 高鳴る鼓動をおさえながら、あずさは身を乗り出して、親友を挟んだ向こうにいるなつみさんに声をかけた。

 「誰? なつみさんのお友達?」

 問われて、なつみさんが腕組みして大袈裟に唸る。

 「ん~~~~…。友達……っつーか、先輩? バイトで知り合ってん、つい最近。アタシと違って、見た目はアレやけど、まあええヤツやで」

 「なつみさんと違って………?」

 思わずこぼれた言葉に、彼女が軽く睨みつけてきた。

 「何やの、それ。アタシはあんなに派手じゃありませんよーだ。“明るいけれどちょっと健気で控えめなギャル”、それがアタシのテーマなんやから」

 「そうなんだー」

 なつみさんがあんまり胸を張って言うものだから、あずさは得意の優等生スマイルを浮かべて、表情に軽く蓋をする。
――張ってる割には意外と胸、ないのね……なんて思ったのは内緒。口が裂けても言えない。だって、優等生キャラだもの。

 「んで」

 「きゃあ!?」

 いつの間にか目の前に移動してきていた彼に、3人が狼狽する。
 彼は傷ついたとばかりに、心臓のあたりを手でおさえてみせた。

 「うわっ、ひどっ。人をモンスターかゴースト扱いして。俺、こう見えてガラスのハートなんだぞ。めっちゃ傷つくやんか」

 なんて言いながらニヤニヤしているのはたぶん、それほど気にしていないせい。

 なにせ初対面。
 ここはあまり観察眼を鋭くせずに、無難に接するのが一番だろう。

 ――と、あずさが結論付けたところで、なつみさんは頬をふくらませながら、手をひらひら振った。

 「男のくせにガラスとかゆーなよなー、先輩。…あ、紹介するわ。こちら、秋月ナントカ先輩。バイトで知り合った、優柔不断でちょっと抜けてる人。んで、こっちはアタシの親友2人組のサオリンとあずたん」

 「お、おい、ナントカはねーだろ。あとそれから、もっとマシな紹介してくれよ。学院周辺の猫にも好かれる心優しくイケてる人、とか」

 うろたえつつも、きちんと要望を伝える秋月さん。
 対して、なつみさんはご機嫌斜めから気分が持ち直してきたのか、リップグロスが光る唇のはしを上げて、ニヤリと笑ってみせた。

 「ええやんか、そんな細かいことー。先輩が抜けてるのは、曲げられん事実やからなあ」

 「こ、このガキ…!」

 「あぁ、蘇るエピソードの数々…。頭の中にムラムラ蘇ってくるわー」

 ここで佐織ちゃんが顔を赤くして、なつみさんの袖を引っ張った。

 「な、なっちゃん。ムラムラは……ちょっと」

 普段、どちらかというと突っ込みではなくボケ気質な佐織ちゃんの言葉に、なつみさんが目を丸くして見つめ――そしてコソコソと密談を始めた。

 「え、何で。アタシ、おかしいこと言った?」

 「おかしいっていうか……。たぶん、かなりおかしい…」

 「え、マジ。アタシ、ヤバすぎ、イケてない?」

 「うん。やばいし、いけてないと思う」

 「そっか。そりゃ、あかんな」

 秋月さんを放り出して、今後の対策を練る2人。
 あの、彼、やることなくて困っているんですけど。
 ここで話しかけるのもあまり面白くなさそうなので、あずさが曖昧な笑みを浮かべていると―。

 「あっ、いた!」

 またもや、公園そばの小道から。
 コンビニのビニール袋を大きく揺らしながら、少女が息を切らせながら走り込んできた。

 「ちょっと、秋月。何で先、行っちゃうのよ。待っててって言ったのに!」

 苦情を言いながら、瞬く間に秋月さんのそばに駆けてきた少女は肩からこぼれ落ちた巻き髪を払い、やがて、その向かいに座るなつみさんを見つめて、顔をわずかに――いや、思い切りひきつらせた。

 「あっ、あんたは……!」

       次回”あずたん、アワードに行く~5~”につづく

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あずたん、アワードに行く~3~

 「あずたん……」

 お昼前の京都駅正面改札口そばで―。
 あずさはつぶやいたまま、絶句していた。

 「そ。あずたん。ええやろ?」

 目の前では、なつみちゃんが太陽みたいな笑顔を浮かべている。
 明るい眼差しから逃れるように、その肩の向こうに視線を向けた。

 切り取ったような青空のもとで、堂々とそびえたつタワーを見ながら、あずさは思った。

 生まれて18年。
 物心ついた頃から医療の道を目指すべく、勉強に勉強を重ねてきた。
本当はどこかで、佐織ちゃんや他のクラスメイトのようにのんびりと過ごしたかったのだけれど、気付けば真面目な優等生キャラになっていて。

 うまく言えないのだけれど、まわりとの距離を感じることが多かった。

 そんな自分が今―。

 「あず…たん…ですって…?」

 石のように固まったまま、ゆっくりと反芻するようにつぶやくあずさ。
 その姿に焦りを感じたのか、佐織ちゃんがささっとなつみさんとの間に割って入ってきた。

 「ね、あずさ。どうしたの。気分悪くした?」

 肩に手をのせて、グラグラ揺さぶってくる。
 揺れるタワー、揺れる佐織ちゃん、そして自分。

 無意識のうちに笑いがこみ上げてきた。

 「ふっふっふっふっふっ……」

 「あ、あずさ?」

 「え。あずたん?」

 「ほら、また。あずたんって……ぷっ…あははははは…」

 一度吹き出したものは、なかなか止まらない。
 たとえ親友が戸惑っていても、初対面のなつみさんがぽかんとしていても。
 止まるはずがないのだ。
 だって、自分がまさか―――あの、良くも悪くも真面目な優等生で通っていた自分がまさか、あだ名をつけられちゃうだなんて。佐織ちゃん以外には、苗字で呼ばれることがほとんどだったのが、ここでいきなりあだ名をつけられちゃうだなんて。

 もう、どれだけすごいのよ。佐織ちゃんの引っ張ってきた縁は―!

 考えれば考えるほどにおかしくて、楽しくて。
 
 そうしたらもう、止まらなくなってしまったのだ。

 

 そして。
 お腹がよじれるほどに大笑いしてようやく治まったところで、なつみさんが何だか決まり悪そうな顔をして、よろけそうになった手を支えてくれた。

 「なんや、悪いことしてしもたんかな…。あずたんって嫌やった?」

 上目づかいで、どことなくこちらを気遣う姿に、あずさは取り出したハンカチで目のふちをぬぐいながら首を振った。

 「ううん、全然」

 「そっか、良かった。さっすがサオリンの親友なだけあるなあ。オモロイ人やわ」

 なつみさんはニーッと口元を横に引っ張ったかと思うと、片手であずさ、もう片方で佐織の腕をつかんで、さくさく前に進み始めた。

 「さ、行こ行こ。まずは腹ごしらえや。お腹すいとったら、オモロイ発表聞き損ねるかもしれへんからなー」

 「………って、なんでこんな所なんよー」

 尖らせた唇から、悲しみのため息が漏れている。
 その横に並ぶようにして座っていた佐織とあずさが、苦笑いしながら顔を見合わせた。

 「そんなこと言っても…」

 「ねえ…」

 数十分後、京都コンピュータ学院そばの公園にて―。
 集ったばかりの3人は、まだまだ寒さの残るベンチに身を寄せ合って腰かけていた。

 理由は、お店が混んでいたから。
 地下のレストラン街をうろついた果てに見つけたファストフード店で、席がないことに気がついたときはすでにレジの順番がきてしまっていて、また探し回るのは疲れるので、そのへんで食べようということになったのだ。

 それも外がこんなに寒いと知っていたなら、やめたのだろうけれど。
 どうやらなつみさん、あんなに盛り上がっていたのにそこまで考えていなかったみたい。

 寒さですっかり意気消沈してしまい、2度目のため息を漏らした。そのついでに膝上の紙袋を開いて、動きを止める。

 「はぁー……。……あ、しまった」

 その言葉に、佐織ちゃんがハンバーガーをかじりながら目を丸くする。

 「ぬ、ろーしたの?」

 わずかに眉をひそめたなつみさんに、あずさはポテトをかじってから翻訳をしてみせる。

 「“ん、どーしたの?”だって」

 「あ、なるほど」

 拳を縦にして手のひらをポンとたたいて、なつみさんは怪しげに微笑んで隣に座る佐織ちゃんにしなだれかかってきた。

 「ねー、サオリン。アタシのオレンジジュースとそのスープ、取りかえっこしない? 今なら氷多めの特別サービス、ついてるわ・よ」

 思わぬお色気ちっくなモードに、佐織は膝にあったファストフードのロゴ入り紙袋を抱えこんだ。

 「ちょ、やだ! こんなコートも脱げない寒さで氷飲料だなんて、無理。だいたいそれ、なっちゃんが氷多めでって注文してたんじゃないー……や、耳くすぐったい、やめてぇぇ~~~~」

 思わぬ攻撃に身をよじってかわそうとするも、なつみさんはなかなかあきらめない。

 「スープ、欲しいの。お・ね・が・い」

 と、佐織ちゃんは助けを呼びながら、ふとこちらを見て凍りついた。

 「やめてぇ~~~…って、あずさ…何、写メ撮ってるのよ~~」

 「あ、ごめん。バレた?」

 「バレてるも何も…。そんな堂々とかまえてたら…」

 顔を思いっきりしかめる向こうで、なつみさんがまぶしい笑顔でVサインしてみせた。

 「ホントだ。ぴーす」

 「ぴーす、じゃないってば~…もぉ」

 がくっと肩を落としてなつみさんの迫りがゆるんだ隙に、紙袋におさまっていたスープの蓋をあける。そして頬を膨らませながら、そのカップを差し出した。

 「はい、分けてあげる。でも全部飲んじゃダメだよ」

 「サオリン……」

 瞳をうるませ、両手を胸の前に組み合わせているなつみさんは、どうやら佐織ちゃんの行為に感動…………したのかと思いきや。

 「いっただきぃ」

 ためらいなんか微塵も見せずに、容器を奪い取って一気飲みしようとして。

 「あっつぅ!!」

 思いっきり舌を突き出して、涙目になった。
 そのゆるんだ指先から容器を回収した佐織ちゃんは、苦笑いしながら後ろを振り返った。

 「だってスープだもん。熱いよ、ねえ?」

 話をふられて、あずさはかまえていた携帯電話を折りたたみながらうなずく。

 「そうねぇ。それはそれでいい絵が撮れたかもしれないけれど」

 「だから、写メしないでってば」

 「そう? 残念だわ」

 「そーやで、サオリン。昔から言うやろ。事実は小説より奇なりって」

 「それ、使う場所間違ってると思うけれど…」

 苦虫を噛み潰したような佐織ちゃんに、おかしいなと首をひねるなつみさん。その2人があまりにもおかしくて、あずさが、吹きだしそうなのをこらえていると。

 少し遠く――公園の外から、聞きなれない男子の声が響いてきた。

 「あれ、なつみー?」

 一同がいっせいに、公園の横を通る小道に視線を向ける。
 一人の少年があきれ顔をして立っているのが、視界に入った。

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神崎佐織ラフスケッチ決定分その3
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あずたん、アワードに行く~2~

 『いったい何が起こっているのかしら』

 期待に高鳴る鼓動を感じながら、あずさは進みかけた歩みを止めた。

 「…おっと」
 
 すすっと後ずさって、少し遠巻きに彼女たちを見つめる。
 楽しい出来事が起こりそうな予感に目をキラキラ輝かせながら、あずさはそっと手を合わせた。

 改札口のそばでは、抱き合う少女が2人―。

 正確には“抱きついてるのと抱きつかれるのが合わせて2人”ってことになるのだろうけれど、細かいことはどうでもいい。

 休日の昼間の京都駅。
 地域住民も、観光客もうじゃうじゃいるこの人通りの最中で、少女が2人、抱き合っているのだ。

 しかも片方はダッフルコートにジーパンの比較的地味目なタイプに対して、もう片方は太ももの半ばまである明るい黄色のロングニットの下に緑のタイツと茶色のモコモコブーツを合わせていて―見るからにギャルで派手なタイプ。

 地味と派手。
 どこからどう見ても、正反対のタイプにしか思えない。

 だからこそ、それがあずさの好奇心に火を付けていた。 

 『佐織ちゃんってば、なんて羨ましいの!』

 昔からそう。
 佐織ちゃんはいつも思わぬ人に好かれてきた。それも1つの才能だと言わんばかりに。
 
 そしてあずさも昔からずっと、何かおもしろいことが起こるたびにこうやって密かに出来事を観察……いや、見守っているのだ。

 「サオリ~~ン、ほんまにメッチャ会いたかったわぁ~」

 ギャルちゃん(名前を知らないから、とりあえず仮名)に抱きしめられて、驚いて固まっていた佐織ちゃんが、顔を真っ赤にしてもがき始めた。

 「ちょっ、やめてよ。こんなところでー」

 「何言ってんの、水臭いわぁー。アタシとサオリンの仲でっ」

 そう言ってギャルちゃんは腕に力をこめつつ、目を細めている。
隙間がないのではと思えるほどに黒々とした“つけまつ毛”に、あずさは感嘆のため息をついた。

 「ホントにギャルなんだぁー…」

 そのまま大きくうなずき、唇のはしを上げた。

 「いいねぇ、佐織ちゃん。ああいう面白そうな人に好かれて」

 だってここは京都駅、しかも正面入り口―。
 こんな観光地のメッカで人通りの多いところで、あんなふうに熱く抱き合えるだなんて人はそうはいない。

 いや、かなりいないはず。
 そう考えるとやっぱり佐織ちゃんはある意味、恵まれた人に違いないのだ。

 羨ましい人――まあもっとも、自分はそうなりたくないけれど。

 ―――なんて考えて、あずさが喜びに頬を染めている間、佐織ちゃんは固まったまま、辺りをキョロキョロ見回して叫んだ。

 「…あ、いた!」

 旅行カバンを持たない手をひらひらさせて、あずさに救いを求めている。

 残念。どうやら今回はこれ以上、傍観者でいられないみたい。

 あずさは苦笑いして、彼女たちに近寄った。

 「お取り込み中、すみませ~ん」

 「「お取り込み中?」」

 佐織ちゃんの怪訝そうな声と、ギャルちゃんの無邪気なそれが重なって、なんだか不思議なハーモニーを描いている。

 「まあ、お取り込み中ってほどでもあらへんけどね。しいて言えば、熱い再会ってやつ? そんなとこやな」

 「なんなのよー…熱い再会って…」

 抱きしめていた腕を下ろして、そのまま腕組みしてうなずくギャルちゃんの横で、佐織ちゃんはヘナヘナと崩れ落ちそうになって。

 「あ」

 何かに気がついて、あずさとギャルちゃんを交互に見た。

 「え、えっと。2人とも初めてだったよね」

 言いながら間に立って、ギャルちゃんに手のひらを向ける。

 「こちら、新城なつみさん。受験で会って、そのまま押し切られる形でメアドを教えちゃった人」

 「…押し切るって、人を相撲取りみたいに……。まあ、人間関係は押しが大事やけどな。押して押して押さなきゃ何も始まらへんし」

 頬をぷうっと膨らませてから、一人でうんうんうなずいているギャルちゃん――じゃない、なつみさんに、あずさはにこやかに微笑む。

 「はじめまして。私…」

 と、名乗りかけた口元を、なつみさんの人差し指が封じた。

 「待って! 当ててみせるから!」

 「え、はい…?」

 当てるって、何?
 あずさの名前とかパーソナルデータ?
 それともこの人、あずさ自身も知らない……いや見えない何かが見える人なのだろうか?

 「ふふっ…」

 こみあげてきた笑いに、あずさ自身、ハッとする。

 これはまずい。
 抑えかけた好奇心が、また起き上がってきてしまいそう。
 でも初対面の人に、質問するのも何だから、とりあえずはいつもの優等生スマイルをキープする。 

 一方、なつみさんは腕組みをしたまま天をあおいで――やがて。

 「そうやわ!」

 目を見開いて、得意げに人差し指を向けてきた。
 あずさの肩からかかった斜めがけのポーチの横、緑色の小さなカエルのマスコット人形に―。

 「え、何…?」

 先が見えない。
 でもなんだかワクワクするような、しないような……むしろ、ちょっと怖いような…。

 まるで蛇に睨まれたカエルにでもなったかのように、あずさはただ、なつみさんを見つめていた。

 すると。

 「そのカエル、四条のお店で買ったやろ? 交差点の角っこにある雑貨店で!」

 びしっと言い当てられて、そういえば―と思いだす。
確かにこれは先日の卒業旅行で一目ぼれしたカエルで。京都市の繁華街の1つである四条で購入したものだった。

「え、ええ。そうだけれど…」

言い終わらないうちに、なつみさんは顔をほころばせて小さく胸の前でガッツポーズを作った。

 「やったぁ!」

 「え、えええ?」
 
 戸惑うあずさ。
 対応を判断しかねて、佐織ちゃんに目線を向けるも、苦笑いしつつも放っておくつもりみたい。

 「やっぱりー。いや、ね。アタシ、服とかバッグとかいろんなもの見て歩くの好きやんかー。だからな、可愛いの見たらついつい当てっこしたくなるんよー。あ、アンタ名前は何やったっけ? カエル好きな……」

 一瞬、勢いにのまれそうになったものの、これがきっかけでカエル呼ばわりされては困るので、あずさはささっと自己紹介を挟み込む。

 「私は三倉あずさと言います。佐織ちゃんの生後3カ月からの友人で幼馴染。どうぞよろしく」

 淡々と言われて、なつみさんが頭を下げる。

 「こちらこそよろしゅう。サオリンの友達は、アタシの友達や。せやから、アンタはアタシの幼馴染も同然や」

 「…そ、そうなの?」

 あまりに当然のことのように言い切るから、あずさは再び、彼女のペースに巻き込まれてしまう。 
カエル呼ばわりされなかっただけでも、よしとするか。
 
 ほうっとため息をついたあずさに、なつみさんはそのメイクとは真逆のさっぱりした笑みを浮かべて、手を差し出してきた。

 「はじめまして、あずたん。これから仲良くしよーな?」

 「あ、ずた…ん…?」

 絶句―。
 あずさは生まれて初めての感動が、体中を突き抜けていくのを感じていた。

       次回”あずたんアワードへ行く~3~”につづく

三倉あずさラフスケッチ決定分その1
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