各種鮨種について-蟹(カニ)

蟹(カニ)

松葉蟹(マツバガニ)
 江戸前の本筋からすると例外だが,流通の発達や鮨技術の地方への普及によって,蟹を江戸前式に握ることも可能になった。
 松葉蟹(あるいはずわい蟹)は,新鮮な生を真水に漬けると身が縮れて躍り上がる。その程度に新鮮なものだけを食べるようにする。生だと,淡くさわやかに海の幸が語りかけてくるような,やさしい味である。茹でると,甘くて白波が香り立つ。解禁になる12月から1月末くらいまでが良い。春になっていくとだんだん味が落ちてくる。ときどき,黒くて丸い虫の卵がびっしり甲羅に着いていて気持ち悪いが,これが着いていると日本海産の証拠である。虫は蟹の中には入らないので,無視して良い。
 鮭と並んで蟹は日本人の好物だが,流通しているものの99%は古くて臭いが出ていて,その独特の腐臭を蟹の美味さだと誤解している人がかなり多い。茹でてから冷凍しているようなものや,頭を取って足だけの生の冷凍ものなどは,腐臭の出ているものが大半である。都会の蟹料理専門店の前に漂う匂いも,アメリカのスーパーで売られているダンジネスクラブの匂いも,日本のスーパーの魚コーナーの塩鮭パックの匂いも,あれは腐臭なのである。本当に新鮮なものだけを食べよう。蟹も鮭も,速やかに必要以上の飽食を避けて,地球を大切に。

蟹味噌
 生きている新鮮な松葉蟹の茹でたてか,酒をたらした甲羅焼きの味噌は薫り高く甘いものである。新鮮な蟹味噌ならば,鮨にする意味がある。都会のカニ料理専門店とか金属ベルトコンベアが回転しているところでは,蟹味噌と称する缶詰や瓶詰めの緑の粘性物を軍艦巻きにしているが,ああいうものを蟹味噌だなどと思ってはいけない。

かにっ子
 松葉蟹(ずわい蟹)の雌のことを,福井ではセイコ蟹,加賀に行くと香箱蟹,京都ではコッペ蟹という。殻のなかにある内子が美味い。日本海の海辺で,活きの良い茹でたてのセイコ蟹の内子をほぐして,軍艦巻きやちらしにする。ちらしにするときは雄より繊細な雌のセイコ蟹の白身もいっしょにして,好みで海苔を振りかけても良い。蟹は味が濃いので,こればかりは鮨飯は薄味が良い。良いワサビが必須であるが,生姜はいらない。外子は歯ごたえが楽しいが,味はイマイチなので酔いが回った後の酒のアテ。蟹は必ず活きた新鮮なのでなくてはいけない。

蟹の小説はこちら↓
雪見 -城崎にて

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各種鮨種について-シャコ

シャコ
 春の子持ちと秋の子なしがあり,それぞれに違った味わいがある。鮨にするなら子なしのほうが良いと思う。味が濃く,他の鮨種と方向性がかなり異なるので,握り鮨として食べるときはその前後に何を選び,どのタイミングで注文するか,悩んでしまう。一つ食べると,生姜とお茶で忘却するまで待たないと,次の鮨種を殺してしまう。これはこれのみに集中して,ビールとともに,塩の効いた茹でたてを大皿に山盛りに,自分で剥いて水々しいのを食べるほうが好きである。冷凍ものは最悪で,潮水が染み出る藁を噛むがごときである。

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各種鮨種について-伊勢海老(イセエビ)

伊勢海老(イセエビ)
 イセエビは,兄弟親戚が太平洋沿岸に広く分布していて,カリフォルニアからメキシコに至る沿岸にも似たようなのがいる。しかし,その名のとおり,伊勢のものが世界一である。九州から沖縄のほうへ南下すると名前も色も変わり,美味くない。身は生だと少し水っぽいので,鮨種にするならば,軽く茹でる。頭の中の味噌は軍艦巻きにしたい。生よりは,蒸したり焼いたりして食べるほうがずっと美味い。まるごと味噌汁にすると大変贅沢で,凡百の汁物を蹴っ飛ばすほどだが,高くつくので注文するときに少し勇気がいる。味噌汁にしてもらうときは,化学調味料は微塵も入れるなと念押しすること。

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各種鮨種について-白海老(シラエビ)

白海老(シラエビ)
 瀬戸内のシラサエビと紛らわしいが,富山で有名なのがシラエビである。シロエビと言う店もある。小さいのを丁寧に剥いて,たくさん盛って軍艦巻きにする。ねっとりと軟らかくて甘く,海苔と合う。アマエビよりもさらに上品で繊細だと思う。

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各種鮨種について-甘海老(アマエビ)

甘海老(アマエビ)
 北陸沖,富山から金沢あたりで食べるのが最高である。ブルーに透き通った卵を抱えているものも地元では好まれているが,卵の味は薄くてあまり印象に残らない。一度富山か金沢に行って,本物を食べておくことを強く推奨する。能登半島の内海のほうが美味い。新鮮なものは舌の上でさらりと溶けていくが,死んで頭の中が黒くなると極端に不味くなる。似て非なるグリーンランド周辺からの輸入ものが横行していたが,最近はロシアカムチャッカからも多いらしい。冷凍輸入物は腐りかけが多く,ドロリとしていて舌に絡みつく。

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各種鮨種について-白さ海老(シラサエビ)

白さ海老(シラサエビ)
 鳴門海峡では,シラサエビといって,車エビの白っぽいような,軟弱そうなものが有名である。同じ大きさの車エビよりもとても繊細で,軟らかくて甘い。踊りで握り鮨なら,車エビを押し退けて圧倒的に最高峰のエビである。茹でたものも,優しく,奥深い味わいである。鮨にせずに,そのまま食しても,巻き鮨に入れても良い。これを知らずして,エビを語るなかれ。

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各種鮨種について-車海老(クルマエビ)

車海老(クルマエビ)
 生きて流通しているのは養殖ものである。養殖技術が世界に普及して,世界中どこに行っても食べられるようになった。香港でも大連でもニューヨークでも食べることができる。天然ものと養殖ものの差異は,ほとんど分からないが,天然の方が生のときに黒っぽくいびつで,養殖ものは綺麗に形が整っている。夏でも冬でも美味いエビの王である。握り鮨にするのは小ぶりのものを使う。15cmくらいのをマキ,10cmくらいのをサイマキと呼ぶ。
 新鮮な生を茹でた直後のものは,赤く輝き美しい。踊りといって生で動いているのを握ったり,茹でて酢に漬けて握ったりする。踊りにしたら頭を塩焼きにしてもらおう。活きのいいのを丸ごと塩焼きにするのは鬼ガラ焼きと言う。頭の中の味噌も美味い。鮨屋で一匹を愛でながら味わうのも良いが,市場で活きているのをたくさん買ってきて,家で蒸して醤油やマヨネーズで豪快に食べるのも良い。
 頭を取ってあるエビで,胴体から白い身が噴出するように膨らんでいるのは冷凍ものである。新鮮なものは頭がついている筈だ。頭に黒い濁りのないものが新鮮なときに茹でた証拠。エビは死んでしばらくすると頭の中が黒くなって臭うようになり,身が緩んでしまう。

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各種鮨種について-海胆(ウニ)

海胆(ウニ)
 ウニは,礼文島,利尻島などの北海道の蝦夷バフンウニが世界で最も美味い。本州や九州のものは春から初夏で,北海道のものは初夏から晩秋までが旬なのだそうである。ウニは,種類と産地で様々に味わいが異なる。蝦夷バフンウニ,バフンウニ,北ムラサキウニ,関西の海岸でよく見るムラサキウニなど,いろいろあるが,全般的に南下するほどあっさりとした味になるようである。三陸のウニは北海道の同種に比べると淡白で,瀬戸内のウニはさらにあっさりしている。小浜湾のウニは優しく枯れた味わいがあって,北海道産とは全く異なる。ウニそれぞれに地元の良さがある。カリフォルニア南部のウニは,北海道産に全く引けを取らないほどたっぷりと濃い味なので,アメリカに行ったらぜひ試して欲しい。第一に,アメリカではウニは安い。しかし,築地では一口数千円することも珍しくない。
 生ウニはすぐに溶けてしまうので,保存のために明礬(ミョウバン)に漬ける。1週間も冷蔵庫で形が変わらないようなのは,明礬含有率が高い証拠だ。ロシア産,北朝鮮産は明礬が多すぎて舌がしびれる。きゅうりの薄切りを添える店が多いが,どう考えても合うとは思えないので,取り除いている。鮨屋では野菜が不足するので,きゅうりはウニの味を忘れた頃に別途醤油で食べるように。

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各種鮨種について-青柳(アオヤギ)

青柳(アオヤギ)
 姫貝,ばか貝という別名がある大きな二枚貝。小柱と言う貝柱の軍艦巻きは,繊細で上品である。貝殻ごと醤油で焼いたらとても美味いのだが,それをすると,いつもハマグリを思い出して少し悲しくなってしまう。

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各種鮨種について-とり貝(トリガイ)

とり貝(トリガイ)
 美味いものから,ゴムではないかと思うような得体の知れない冷凍ものまでピンきりである。新鮮な美味いものは,噛むほどに甘く滋味が溢れ出てくる。産地による差異が大きいので,ツメを塗るのが良いか,山葵と醤油が良いか,いつも迷う。小浜湾近辺のものが美味いと思う。

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