私大の半数が定員割れ

最近,先端企業の中には,「私立文系卒は採用しない」と明言するところが増えてきたという。KCGグループには専門職大学院大学もあるので,大学業界のことも多少はわかるのだが,グループのベースは専門学校である。本体が「大学」でなくて良かったと思う。卒業して,就職して,働く必要のある人たちのための教育機関でありたいと考えている。
専門学校は文科省直轄ではなく地方自治体の管轄なので,一般の大学のような諸問題に振り回されることが極めて少ない。

募集停止を発表する大学が増えてきて,一般の大学(私立文系)の定員割れが大問題となっている。しかし,なぜ定員割れが悪いのか,あまり知られていないようなので,書いておきたい。

文科省直轄の一般の大学は,学生数定員と教員数・事務員数,図書館や運動場などの各種設備要件が事細かに定められている。例えば,図書館が一棟あると,それだけで十数名の人件費が発生するわけだ。これらが,学生数が減っても,なかなか規模縮小できないようになっている。
文科省の大学設置基準(レギュレーション)が,「定員が割れると経営が成り立たない」ようになっている。しかも,定員が2割以上減ると,文科省が補助金を打ち切るなどの制裁措置もある。そのような,「定員が割れたら経営破たんするような制度」を維持しているのは他ならぬ文科省だ。

ところが,その一方で,文科省は新設大学や新設学部の定員増を,さしたる分析も判断もなく野放図に認めており,毎年,全国で数千名の定員増加が認可されている。これでは定員割れ大学がどんどん増えて当然だ。文科省は,これを「自由競争だ」と思っているらしいが,東大京大を頂点とする序列の決まっている大学システムで,上位の定員増を認めると,当然,下位の喰いブチが減るわけだ。

これでは,文科省は,国内の大学を破壊しているのだと言っても過言ではない。いわゆるゆとり教育の前後から,我が国の教育行政は国を滅ぼすような結果しか出していない。文科省の天下り先の外郭団体は増える一方で,大学数も増える一方で,資源(学生)は分散していくばかりであり,全体的に日本の教育が弱体化していっているのは明らかだ。

現時点で「私大の半数が定員割れ」ということは,「半数が経営破たん」ということでもある。大手大学(60校からせいぜい100校)の定員増加を認めるようなことをするのはやめて,大手から順番に定員削減するように命令すれば,日本中の大学が救われるということになる。

しかし,それら喰いブチに苦しんでいる半数の大学が,現実的・社会的に機能・貢献しているのかというと,実は,そうでもなく,ここにも別の問題が内在する。

手前味噌ながら,ことIT・コンピュータの教育においては,現在の大学制度では,その教育はほぼ不可能である。IT・コンピュータのような時代とともに進化発展する分野は,現行の大学組織では追従できないようになっている。そして,そのような組織構造を求めているのも,文科省なのだ。

大学とは,そもそも「象牙の塔」という比喩があるように,巷の喧騒を下に見て,塀の中に籠って真理を探究する場であるという意識が強い。そして,教授が教育・研究や組織運営のイニシアティブを取るようにできている。いうまでもなく,教授になるのは普通は50歳を超えたあたりからだ。年配の教授の下に助教授(助教),そして助手,と並んで権力の序列が決まっている。

大学行政を司る大教授たちは,60歳代はザラで70歳代も多い。そういう人たちが,大学制度と大学組織のイニシアティブを取っているのである。

そのような一般の大学組織に「時代の推移を知れ」と言っても,最初から無理な話なのだ。

すなわち,大学は,「社会(巷)の趨勢や最先端の技術を学ぶ場所ではない」ということである。それら旧来の一般の大学にできることは,「それが人類の未来に有用か否かという判断ができないのに,それを研究すること」と,「すでに済んだ歴史を検証すること」くらいだろう。
「今,世の中や各業界で何が起こっているか」を知らない人があまりにも多いのには,いつも驚かされる。

そして,ここ20年でほぼ倍近くになった大学の大半に,いったい何ができたのか。研究成果もさほどなかったし,学生を就職させることもできなかったから,人気が落ちて定員割れになっているということなのだ。それら平均値の大学への進学者たちの大半は,「卒業後,就職したい人」たちなのである。「生涯学問をして働かずに済むような身分」ではない。将来就職したいのならば,大学に行かない方が良いという時代であるとも言えるかもしれない。

すでに,先端企業の中には,私立文系は採用しないと明言するところも増えてきたとの冒頭の言は,先行する正しい判断なのだろう。

以下,産経ニュースから引用
http://sankei.jp.msn.com/life/education/090610/edc0906102337008-n1.htm
私大の半数が定員割れ 「在学中に廃校になったら…」不安の声
2009.6.10 23:35

このニュースのトピックス:大学教育
 少子化で18歳人口が減少し、定員割れの私立大が半数近くに上るなど、厳しい運営を迫られる大学が少なくない。「大学全入時代」の到来で希望すればだれでも大学生になれる一方、学生の獲得競争に敗れて淘汰(とうた)され、廃校が決まった大学の学生からは、「留年や休学して在学途中で大学がなくなったら、どうすればいいのか」と不安の声が上がっている。

 文部科学省によると、4年制の私立大は平成20年度で591校あり、2年度の372校から約1・6倍も増加した。しかし、日本私立学校振興・共済事業団の20年度調査では、定員割れした私立大は約半数の266校に上った。このうち、29校は定員の半数にも満たなかった。

 定員割れの大学は、地域別では北関東や北陸、中国、四国地方で多く、学生数では800人未満が目立つという。都心の大規模校に学生が集中し、地方の小規模校ほど厳しい運営を迫られるという「二極化」の実態も浮かんでいる。

 今回、募集を停止した三重中京大の担当者は「今、募集停止しないと在学生の教育も十分にできなくなってしまう危機感があった」と明かす。聖トマス大でも12年度以降、定員割れが続き、累積赤字は20億円に上っているという。

 一方、学生の側も廃校を念頭に置いた募集停止に、不安を隠せない。「学生や保護者向けの説明会を何度も開いてきたが、学生からは『留学や休学したときどうなるのか』『他大学への転学などはできるのか』といった声が多い」と三重中京大広報課。

 「消える大学 残る大学」の著者、諸星裕・桜美林大学教授は「1万人規模の大学は60校ほどしかないが、それが学生の半分ぐらいを取ってしまい、残り半分を500校近くで取り合うのが実態で、淘汰は仕方がない」と説明。

 今後について「地方大、女子大、小規模大、単科大の順に危なくなるだろう。運営の厳しい大学は、18~22歳層ではなく、地域や社会人に活路を求めていくしかないのでは」と指摘している。

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