愛しい彼女

人生色々,卒業生たち(クリックで全文表示します)

KCG3

京都コンピュータ学院は,近年は相対的に女子が少ない。80年代には,女子のコンピュータオペレーターブームがあって,半数以上が女子だった学科もあったのだが,21世紀になってからは,男子のほうが多いのが普通である。
当たり前だが,少ないほうがモテる。さらに当然だが,モテる女子はさらにモテることになる。クラスや所属クラブで人気者だった彼女を,長い間かけてゲットした,ある少年の恋物語。

山陰のある地方都市出身のO君が入学したのは,4年課程の情報学科。一回生(京都では,一年生のことを一回生ということが多い)のときに,軽音楽部に入部した。同期で,大阪から通学するEさんという可愛いコがいた。どちらも新入部員ということで,入部早々にお互い名前を覚えたが,O君は,どこから見ても,エヴァの綾波レイにそっくりな彼女に,ほとんど一目惚れだった。その笑顔は,O君の心に焼きついてしまった。まるで,頭の中に大容量のROM(Read Only Memory=書き換え不可能な記憶装置)ができたようであった。

O君は,ギターをもっと上手に弾けるようになりたかったから,リードになった。Eさんは子供のころからピアノを習っていたので,キーボードの担当になった。軽音楽部は,それぞれの音楽の方向性や,担当の楽器やボーカルをできるかどうかなどにより,数名でバンドを組む。O君は,Eさんと同じバンドになることを願った。そして,Eさんが自分の音楽的方向性を語るのを横で聞いていて,自分も迷うことなく,その方向で行くことに決めたのだった。

入部(ログイン)がほぼ同時期だということもあって,うまくO君はEさんと同じバンドになった。しかし,ライバルがとてつもなく多いということに,ほどなく気づくのであった。

朝の通学時には,駅のホームからか,それとも電車の中からなのかわからないが,すでに数名の男子がEさんといっしょになっていて,皆で登校してくる。
授業中は,Eさんの周りに数名の別の男子が座っている。
昼休みは,お弁当を持ってきているEさんの周囲に,朝コンビニでパンや弁当を買ってきている男子が取り巻いている。
放課後,部室に行くときも,別の部員がいっしょにいる。
クラブ活動が終わって,帰宅するときも,大阪の方面に帰宅する男子が二人,いっしょにいる。
学校行事に関することは,すべて,誰か数名が彼女の周りにいるのである。まるでサーバにぶら下がるクライアントマシンのように,数名の男子が取り巻いているのである。コンピュータ概論の授業で,「サーバが高性能だと,クライアントが多くても,処理速度はさほど落ちない」ということがわかったけれど,どうすれば彼女をゲットできるのかは,授業を聞いていただけでは,よくわからなかった。

市内の学生マンションに暮らすO君は,彼女といっしょに通学することもできず,結局二人だけで話す機会など,まったく無いまま,日々が過ぎていった。

彼女の取り巻きの中で,ひとり,目立っている男子がいた。5月の連休の前に,その彼とEさんが付き合っていること(ピアツーピア)を知って,落胆したO君は,しかたがないからあきらめて,音楽一筋で行こうと思ったのだった。(スタンドアロン)

夏休みが終わり,皆が学生生活に慣れてきた頃,彼女は最初の彼氏と別れたという話を聞いた。これはチャンスかもしれないと,再度,恋心に燃え上がるO君であった。しかし,やはり彼女の周りには取り巻きがたくさんいて,告白するチャンスはまったく,無かったのである。

後期入学の半年後輩が入ってきた。彼はギターが上手だったので,O君は,ボーカルに転向した。そして,バンドが採択する歌をほとんど自分が歌うことになった。そこで,O君は,できるだけキーボードの彼女の目を見つめながら歌うようにした。部室で練習しているときはもちろん,学院祭のステージのときも,できるだけ,キーボードの方を向いて,彼女の目を見つめながら歌う。

しかし,そんなことをしても,誰も,O君の視線に気づかなかった。キーボードの彼女は,間違えないようにと一所懸命,楽譜を見ているから,ボーカルの方を見ることなどめったに無い。確率・統計の授業で,O君は,視線が合う確率が極めて少ないことがわかったのである。でも,同じ授業で,極めて少ない確率でも,当たることはあるということもわかった。O君はめげずに,毎日の練習で,Eさんを見つめていた。

冬が来て,年が明けて春の兆しを感じる頃,O君のバンドは,演奏も上手になっていた。その頃,Eさんは3人目の彼氏とつきあっていた。O君は,やっぱり,ひとりだった。

実家を離れて一人暮らしをする少年にとって,夕食は面倒なことである。その日も,O君は,UFOを夕食にすることにして,カップに湯を注いでいた。M先生は,焼きそばはぺヤングだと言うけれど,O君は,UFOが好きなのだった。カップの湯を捨てて,ソースをからめているとき,O君は,ソースソース,,Source,英語の時間に覚えた単語を思い出した。そして,ひとつ思いついたのだった。Sourceである。プログラミングの授業でも,ソースという言葉がよく出てくる。

「そうスカ。」O君はつぶやいた。

音楽ソースの歌詞の中には,愛しているよ,とか,I love youといった意味のフレーズが多い。それで,歌詞が,愛してる,とか,好きだよ~,というような意味のときに,O君は,彼女を見つめながら,その部分を歌うことに決めたのだった。

窓の外には,春一番が吹いていた。

ズンズビダバヅゥビダバ~♪,テレ~レ~レレ~♪
チャンチャンチャラロリロリ~♪,ルンルンルル~ルン~♪
                                   ( -_-)♪~♪♪ … (愛しい彼女②へ続く)

愛しい彼女
愛しい彼女②
愛しい彼女③
愛しい彼女 終章

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