ある夜のバス

京都はバスが便利やな。こんなにしょっちゅうバスに乗ることは
人生でこれまでなかったほどや。

最寄りのバス停は結構人が降りる。それで帰りなんか,たいていだれか
ひとが降車ボタンを押してくれるわけや。

基本めんどくさがりなんで,指一本でも動かしたくない。特に夜は
疲れてるやろ。

ある夜,一つ前のバス停を過ぎて,「次は~~~」て
アナウンスがあったのに,だあれも押さへん。

「おかしいな。だれかいるはずや」。じ~っと待ってたんやけど
ほんまにだれも押さないんや。その時バスの中には10人くらい
いた。結構メジャーなバス停なんで,10人もいて自分しか
次で降りないってこと,ないはずなんや。だれかいるはず。

バスは最後のコーナーを曲がっていよいよバス停に近づく。
あと100メートル,あと50メートル,30メートル…。

「ぶーっ」。ついに押してもた。負けた。自分の弱さに。

しかたない。たまたまだれも,降りる人がいなかったんや。
とぼとぼと肩を落として出口へ歩いたら…。

もう一人後ろからついてくる兄ちゃんがいるやんけ。若い大学生の
メガネかけた男や。

自分に負けたと思てたら,自分にではなく,この兄ちゃんに負けたんや。
「なんやねん,こいつ怠け者が。降車ボタンぐらい自分で押せや」
と無性に腹が立ったで。

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