禁断の師弟愛?

人生色々,卒業生たち(クリックで全文表示します)

F君はKCGの4年課程を卒業して,新任一年目の助手として母校で働いていた。高校時代はどちらかというと口下手だったのだけれど,KCGに学ぶうちに,人前で話す仕事をしてみようと思うようになったからだ。助手としてついた先生が担任をしていた最終学年のクラスに,一歳下のTさんがいた。

Tさんは,先生の紹介によって,京都大学の名誉教授が経営するバイオ系の研究機関で,秘書として働くことが決まっていた。KCGの先輩には,京大に秘書や助手として就職した人が多い。F君に言わせると,Tさんは,新世紀エヴァンゲリオンの葛城ミサトを,すこし妖艶にしたような美人で,大阪の短大を卒業してからKCGに入学したから,在学中はクラスの中では少し大人っぽかったという。ちなみに,Tさんのことをエヴァの葛城ミサトに似ているなんて言う人は,F君の他には誰もいない。

卒業パーティの二次会で,F君は偶然Tさんのとなりに座ることになった。ほとんどの参加者は,かなり「出来上がって」いた。F君ももちろん,かなり出来上がっていたから,思っていたことをスラスラと話せたのかもしれないし,酔ってたから,思っている以上のことも言ってたのかもしれない。そして,その日がきっかけで,二人は,つき合いはじめたのである。

誰からも好かれるTさんにとってF君とは,担任の助手で,教壇で何を言っているのかよくわからない人。でも,真面目そうで,私のことだけを見てくれそうだったから,いいなと思ったのだそうだ。Tさんにとっては,自分だけを一生愛してくれる人が一番だった。それは母から教えられた女の生き方の方法論でもあった。それに,F君の言っていることを理解できるのは,世界中で自分だけのような気がしたのだそうだ。

ついこの間まで,担当していたクラスの学生だった彼女をデートに誘うのは,F君にとっては,とても勇気がいることだった。「教師として,そんなことをしていいのか」と上司の先生に尋ねる訳にもいかず,悩みながら,それでも彼は彼女に夢中になっていった。天真爛漫な彼女は,「もう卒業したんだからいいんじゃない?」とひとこと言って,後はなにも気にしなかった。彼はひとりで長い間,「いいのかな?」と一抹の不安を持って,気を揉み続けていたらしい。

5月の連休に,某クラブのOBの集まる飲み会で,「女子高校で,先生がかつての教え子と結婚するという話はよくあるらしい」という話を聞いて,F君は「それってかなり微妙。」と思ったそうだ。

7月のビアガーデンで学科長の先生に聞いたところでは,男女共学のKCGでも,かつての教え子との恋愛は,過去にはいくつかあったようで,**先生の奥さんも,働き出してすぐの教え子だったのだそうだ。その話を聞いて,心の中で,「いいのか・・。」と,妙に納得したF君であった。でも,学科長には,Tさんのことは言えなかった。

担当クラスの同窓会をかねたクリスマスパーティに,F君とTさんは二人連れ立って参加した。
かつてのクラスの仲間たちは一瞬一様に驚いたけれど,すぐに皆で乾杯で祝福してくれた。料理が運ばれてくると,二人に関して詮索することもなくなり,杯が進むと二人の空気は話し声にかき消されて,それぞれが勝手に移動して椅子も乱れ喧騒に包まれて,二人の座る場所もあちらとこちらに離れてしまった。大勢の同窓生の間には数多くの話題がある。誰が誰とつき合っているかという話も,そのうちの,ほんのひとつに過ぎないのだった。Tさんをエスコートする自分は,この日のパーティのスターになると予測していたのに,F君はすこし当てが外れた。
そもそも,クラスの全員は,授業を持っていないF君のことを,最初から「先生」だとは思っていなかった。担任の先生の助手であった「副」担任の「先輩」の「Fさん」が,こんどはクイーンTさんのシモベになったんだなと思っていた程度だった。

それから何年か経って,F君は今,KCGでの経験を生かして,東京のあるソフト会社で自社製品のチーフインストラクターとして,働いている。
もう人前で話すことに,それなりの自信を持っている。自分が,他の人たちと少し違う世界を観ていることに気がついた。高校時代,口下手だったのはそれが原因だった。それがわかった後,F君はそこを逆手に取って,それを自分の長所だと考えるようになった。そして,例の研究機関を3年で辞めたTさんと結婚して,子供もひとりできた。

二人の住むマンションの部屋の本棚の上には,ウェディングドレスとタキシードを着た二人の写真が飾ってある。写真の中で微笑む二人をとり囲んでいる卒業生の仲間たちの,それぞれの顔は酔っぱらって興奮して大笑いしている。誰かの結婚式で同窓生が大勢集うと,主役は集まる理由か酒の肴となり,皆で騒ぐことが本当の目的になることも多い。そのときも,皆が集まった理由は,皆が来るから,ということだったのかもしれない。

でも,今でもF君は,結婚式の日に,KCGの大勢の卒業生が来てくれたことを,とても誇りに思っている。自分ひとり,世界観が違うのかもしれないけれど,それはそれで,いいことなんだ。F君は,そんな自分を受け入れてくれた,KCGの友人たち(奥さんの取り巻き)に,感謝している。

ズンズビダバヅゥビダバ~♪,テレ~レ~レレ~♪
チャンチャンチャラロリロリ~♪,ルンルンルル~ルン~♪
                                   ( -_-)~ フゥ…

<目次&リンク>
KCGに入学してきた人々,卒業していった人々。=KCGの学生さんの様々なパターン
デジタルネイティブ=今では普通になった,ネットで生きるフリーのプログラマーのはしり
20才で大人になった不良上がり=暴走族やヤンキーが当たり前だった80年代初頭の話
ゲームプログラマー =ゲームプログラマーの話
想い出のあのコ=高度専門士が無かった頃の話。大卒かKCG卒かが問題だったときのこと
卒業生同士の結婚 =卒業生同士で結婚に至る場合
洛北エンジニアリング =KCG伝統の洛北校,別名萩原学校。KCGの最高峰でメカトロニクスに夢中の学生さん
ああ女神様っ!=ベルダンディ-みたいな美人の先生に恋した話
禁断の師弟愛? =先生?と女子学生の恋愛と結婚
K君のRPG=母子家庭の長男が,RPGを作成し,大手ゲームメーカーに転職するまで
 
妹の遺骨=在学中に妹を亡くした情報処理科の寮生。広島の大手ソフト会社No.1,のSE

愛しい彼女4部作  
 一年から卒業するまで同じ軽音楽部だった彼女をずっと愛し続け,卒業の前にやっとゲットして,卒業後,結婚に至った話
愛しい彼女
愛しい彼女②
愛しい彼女③
愛しい彼女 終章
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