穴子(アナゴ)
東京湾羽田沖の穴子が,軟らかくて嫌味なく,世界で一番美味い。旬は冬から春。神戸から明石の関西式焼き穴子も美味いが,こちらは,小ぶりのものを固く焼いて食べるので,鮨種としては別分類にすべきであろう。
江戸前は,煮て下ごしらえしたものを,軽く炙って香りを立たせ,熱いところを握って食べる。つけるのは穴子の骨の出汁をベースにした甘いツメ。江戸前の穴子の身は厚く,軟らかく,口の中でホロホロと崩れて米と混じり合って溶けていく。これ一点,何も比べる対象がなく,咀嚼している間は他の一切を忘却の彼方に押しやるので,毎度々々感動する。
穴子は,鮨屋の腕前によって味がピンキリに変わる。焼かずに蒸すだけの蒸し穴子にする場合は,よほど上手でないと匂いがこもるように思う。関西人の好みの味だと思うのだが,関西には決して伝わらない,江戸前の究極の一つである。