京野菜

 1200年の都は盆地で,海からは遠く海産物に乏しい。その京都の町で人々が開発してきた大地の恵み,伝統の京野菜。各々独特の奥深さがあって,知らない人には想像だに及ばない滋味溢れる深遠がある。

 有名な「九条葱」,「海老芋」,「賀茂なす」,「万願寺とうがらし」,ブランド商品となった「金時にんじん」。
 蕎麦の薬味や刺身の付けあわせにもなる「辛み大根」を筆頭に,「聖護院大根」,「青味大根」,「茎(中堂寺)大根」,「桃山(大亀谷)大根」,「時無し(藤七)大根」など,大根だけでも各種あり,そのそれぞれがかなり強烈に異なる個性を持っている。
 他には,鶯菜,聖護院カブ,聖護院胡瓜,すぐき菜,松ヶ崎浮菜(八頭)カブ,松ヶ崎浮菜(八頭)カブ,佐波賀(天神)カブ,大内カブ,舞鶴カブ,水菜,壬生菜,畑菜,もぎナス,山科なす,鹿ケ谷カボチャ,伏見とうがらし,田中とうがらし,桂ウリ,聖護院キュウリ,柊野(3尺)ささげ,堀川ゴボウ,京うど,京セリ,京ミョウガ,花菜,鷹峯とうがらし,洛西竹の子・・・。
 中には,郡(コオリ)ダイコン,東寺カブなど,文献にはその名を留めるも,絶滅したものもある。

 それぞれ,町名を冠する名前が多い。すなわち,ほんの小さな区域で開発され独自の進化を経てきた野菜なのである。都で長年,熟成されてきたそれぞれの野菜,百家斉放のすべてを知る人は少ない。しかし,京都の八百屋でときどき見かける,それらの京野菜を買ってきて食べてみると,各々に細やかに異なる味わいは,都1200年の春夏秋冬,茫洋果てない時間の流れが積み重なって,多くの人々の英知の結果が,かくも広大な味わいの地平を創り出したかと驚くのである。野菜ひとつ一口に凝縮され濃縮されて熟成された,雅の文化,嗚呼。

 日本の食文化の深奥,これら京野菜を知るためだけに,京都に一年くらい暮らしてみる価値はあると思う。

comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*