EUは禁輸すればマグロを絶滅危機から救える,と思い込んでいるのかもしれないが,そうではない。
世界中で,「冷凍マグロは美味い,刺身や寿司にして美味い」,と信じ込んでしまったところに,一番の原因がある。冷凍戻しのマグロを「美味い」と信じ,マスコミがそれを煽り,本醸造でない合成醤油に緑の着色料の入った合成ワサビを溶き,鼻にツンと来る刺激に反応して,それが美味いものだと信じ込んだことが,一番の悪因だ。
海洋資源の浪費は,第一に,冷凍技術と大量の流通システムの発明から始まり,本当に食べ頃の生のマグロを食べたことがない人々が,その冷凍マグロと合成ワサビの刺激に反応することが,「美味いものだ」と思い込んだのである。
すでに述べたように,人間はどんなものでも,学習すると,それが美味いと信じる生物である。言いかえると,そういう文化が出来上がってしまうということである。
では,解決策はなにかというと,
①マスコミが冷凍マグロは不味い,冷蔵マグロも不味い。と,真実を喧伝すること。
②一方,本当の生の食べ頃のマグロは,こういうものなんだということを「教育」すること。
それで,マーケットが冷凍マグロを買わなくなったら,多くの流通業界も漁業従事者も,マグロの乱獲などしなくなるだろう。売れないからだ。
つまり,一番の原因は,大量捕獲にあるのではなく,それを美味いものだと学習した多くの人々の,食に対する徹底的な誤謬,理解の過ちにある。
本当のマグロの味を知っている人たちは,冷凍戻しマグロなんて食べない。全国ネットの大手スーパーの,昨年捕獲された冷凍戻しのマグロが美味いと感じるのは,そのように刷り込まれてしまっているからである。大量流通と冷凍技術の普及によって,そのパワーによって,冷凍戻しマグロは美味いものだという「言説」が出来上がってしまっているというだけの話なのである。
EU「環境外交」連敗…クロマグロ禁輸否決
http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20100320-OYT1T00076.htm?from=nwla
【ブリュッセル=尾関航也】大西洋クロマグロの国際取引規制を協議したワシントン条約締約国会議で18日、欧州連合(EU)の禁輸提案が否決されたのは、環境保護を看板政策に掲げるEUにとっては手痛い敗北となった。
環境政策で経済的打撃を被る当事者の「実利の壁」を乗り越えられなかった格好で、EU内では理念先行型の戦略に見直しを迫る声が強まりそうだ。
EUの執行機関、欧州委員会は18日、環境政策と漁業担当の両委員による連名の声明を発表。「EU提案に関する投票結果を残念に思う」と失望感を隠さなかった。
締約国会議では、来週の本会議での再投票で巻き返しを図る道もあったが、EUは早々に提案採択断念の方針を固めた。加盟国の中で、取引禁止への漁民の反発を抱えるフランスやスペインなどが消極的な姿勢に終始したためだ。加盟国間の利害が異なる問題では外交力を発揮できないEUの構造的なもろさを露呈した格好だ。
EUでは、「禁輸しなければクロマグロは数年で消滅する。スシも食べられない。日本は(禁輸否決で)自分で自分の首を絞めたのだ」(バス・エイクハウト欧州議員=オランダ「緑の党」所属)など、日本が資源保護を顧みずに短期的利益の確保に走っているとの批判が根強い。だが、18日の採決の結果については、「日本の実利外交に敗れた」との意見も高まっている。
19日付英紙フィナンシャル・タイムズは、クロマグロの禁輸否決が、EUにとっては昨年の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に続く2連敗にあたるとし、「欧州は国際的影響力について自己分析を迫られている」と指摘した。
COP15では、EUは先進国でも急進的な温室効果ガス削減の枠組みを主張したが、国内産業への打撃を警戒する米国や中国に阻まれた形となった。EUはその後、気候変動対策では、再生エネルギー産業の振興や資源コストの削減など「実利」を強調する姿勢が顕著になっている。
クロマグロをめぐっても、欧州委員会はあくまで、資源量減少の「科学的データ」を根拠に、EU単独でも取引規制に踏み切るべきだとの立場だ。しかし、肝心の加盟各国が実利優先を鮮明にする中では、この姿勢も後退を余儀なくさせられる可能性は十分ある。
(2010年3月20日00時38分 読売新聞)