すき焼き

土曜日,家ですき焼き。すき焼きについて記す。

 すき焼きは関西と関東でかなり違う料理になる。ここでは関西式保守本流すき焼きについて述べる。京都コンピュータ学院の初代学院長によると,すき焼きは,読んで字のごとく,すきの上で「焼く」ものであるとのこと。そこから考えると,関東式のそれは,かつて鋤の上で焼いた料理の変形の極地であり,いわば「すき炊き」とでも言うものである。

 すき焼きと牛肉というと,松阪の和田金が有名である。ここは一生に5~6回は行っておきたいところだが,和田金まで行かなくとも,家庭でそこそこ美味いすき焼きを作るのは可能である。ただし,材料にはこだわる。材料の良し悪しと,それを調理する気合がすべての料理である。焼き過ぎないように,絶妙の味わいになるように,精神統一してから料理にかる。従い,雑念の元になることはすべて排除しておく。気合を入れるために,ビール一杯くらいは良しとしよう。

 まず牛肉はできるだけいいところを調達する。霜降りが良いのはいうまでもないが,赤身だけの薄切り肉でも,上質のものはそれなりに美味い。筆者は最近は霜降りよりも赤身に拘っている。霜降りは確かに美味いのだが,脂肪が多すぎて胃にもたれるし,第一コレステロールが高くて健康に良くない。一方,赤身は,いかにもたんぱく質を摂取しているという感覚があって,次の日に元気になる。したがって,最初の一枚くらいは霜降りにしても,メインは赤身にしている。
 青葱はもちろんフレッシュなものを。白葱を推する人もいるが,たまねぎとのコンビネーションを考えると,ここは青葱,しかも,細い目のをたっぷりと用意する。
 そして豆腐は,京都の豆腐がベストだが,それぞれ地元の好きな豆腐屋で調達したらいい。豆腐というものは,水分を多く含むので,含有される水の味がすべてといっても過言ではない。多くの人にとっては,慣れ親しんだ地元の水が一番なので,地元の豆腐が美味いと感じられる筈。焼き豆腐にするか,普通の豆腐にするかは,その日の気分次第。
 たまねぎは入れなくてもいいけれど,入れる場合もあまりたくさんだと甘くなるので,せいぜい一人前は玉葱半分程度にしておく。
 しいたけは良い出汁が出るので,入れるべきだ。すき焼きには春雨かしらたきかという結論の出ない議論があるが,著者は圧倒的に春雨を推奨する。こんにゃくは,上質のものならいいが,スーパーで普通に売っているものは臭くてかなわない。安物の臭いこんにゃくを入れるくらいなら,中国製の緑豆の春雨のほうがずっとマシである。
 野菜はあまりたくさん入れないほうが良い。すき焼きは,あくまでも牛肉の料理である。
あとは,新鮮で美味い玉子は絶対必要。玉子の質でかなり味わいが変わる。

材料
牛肉 ひとり200gもあればかなり満足すると思う。若い人には300g
青葱 細い目の葱。九条葱より細いものが良い。
豆腐 
たまねぎ
しいたけ
えのき
あとは好みに応じて
しらたき,春雨

醤油(たまりか濃い目の醤油)
砂糖(上質の白砂糖)
出汁(割り下を作ってもいいが,だし汁だけでもいい)
日本酒

厚目のすき焼き鍋を熱し,牛脂を敷く。火は弱い目にして焦げないように注意する。まずは砂糖を溶けた牛脂の上に,パラパラと振りかける。次に即座に,砂糖が溶けない間に,牛肉を広げて入れたら,その次すぐに,醤油をかける。この,最初の一枚の牛肉を,どれだけタイミング良く,適切な時間と味で焼き上げるかが,その日のすき焼きの行く末を決定する。すき焼きとは,薄切り牛肉を最も良い状態で食すものである。ほんの軽く焦げ目がつくくらいが良い。砂糖が醤油でほんの軽く焦げて,牛脂と混ざりながら香り立つ筈だ。

 玉子にひたして一枚目の牛肉を堪能したら,二枚目を入れよう。しばらく肉ばかり食べて,飽きてきたら,5cm程度に切りそろえた青葱を並べる。これは,並べた上から砂糖と醤油をかければ良い。さらには豆腐,たまねぎ,お好みに。さて,野菜を入れたら,割り下か出汁を入れる。好みで日本酒もちょっと入れる。豆腐は煮たほうが美味い。

 野菜類を食べつくしたら,また牛肉にする。その場合,空鍋を加熱して,野菜から出た水分を可能な限り飛ばしてから,牛肉が出汁の中で泳がないようにする。牛肉は,「煮る」のではない,「焼く」のである。関東では,ドボドボの割り下のなかに具をすべて浸して,出し汁の中で薄っぺらい牛肉がひらひら泳いでいるすき焼きを見かけるが,そんなことをしたら,せっかくの美味い牛肉の旨味が湯に溶け出してしまって,味が台無しである。湯の中に泳がせると,脂肪分が流れてしまうから,特に霜降りの牛肉の場合は,煮たり茹でたりしないことが肝要である。いったいなんのために霜降りを買ってきたのかわからなくなるから,「鋤で焼く」という語源を思い出しながら,ただ,焼くこと。煮ないこと。

 すき焼きは,火の通り加減が一番大事なので,鍋の中に集中し続けないといけない。したがって,ビールを飲んでいいのは,焼く前の一杯と,ある程度みんなが満足してからである。ただひたすら,牛肉を美味いように焼くことに集中する。飲んで酔っ払っている場合ではない。う~ィ。

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