最近ちょっと話題になった「相対的貧困率」。
「経済学」で学位を取ったぉぅぇぃですが、この「相対的貧困率」については、
「聞いたことあるような…無いような…」ってレベルの認識しかありませんでした。
専門領域外だったのですが、数時間を使って、ネットなどで軽く調べてみましたので、
調べた結果を簡単に説明したいと思います。
分野外ですし、軽く調べただけなので、この記事について、
何か誤りがありましたら、コメントなどで教えていただけましたら幸いです。
まず、最近公表された「日本の相対的貧困率」のウェブページ:
→相対的貧困率の公表について
厚生労働大臣のご指示により、OECDが発表しているものと同様の計算方法で、我が国の相対的貧困率及び子どもの相対的貧困率を算出しました。
最新の相対的貧困率は、2007年の調査で15.7%、子どもの相対的貧困率は14.2%。
ほー、この基準では、どうやら日本の15.7%の人は相対的貧困…だそうです。
しかしぉぅぇぃも社会科学の道を歩んでいる人として、
この類の数値を鵜呑みするわけには行きませんので、
まずは、この「相対的貧困率」について調べてみました。
「相対的貧困率」についてですが、OECDが出したレポートがあります。
→Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countries
タイトルは「不公平な成長?OECD加盟国における収入配分と貧困」ってとこですね。
このレポートに関する日本語要約もあります。
→大半のOECD諸国で所得格差と貧困が増大
そんなに長くありませんので、興味のある方は読んでみてください。
ちなみに、最後に「どのような対策が可能か」ということについて、
- 教育政策は今日の労働市場で必要とされる技能の習得を目指すべきである。
- 失業者の就職を支援する積極的な雇用政策が必要である。
- 有給雇用へのアクセスは貧困削減で重要な役割を果たすが、就職しているからといって必ずしも貧困状態にないわけではない。『格差は拡大しているか』によれば、全貧困世帯の半数以上が少なくとも何らかの勤労所得を得ている。
- 在職福祉(welfare-in-work)政策は、所得補てんにより、困窮状態にある勤労世帯がまずまずの生活水準を保てるようにすることに資する。
などと提案しています。
そういう意味では、実学の学校に勤めているぉぅぇぃも、
貧困対策に少しだけ貢献しているかも?
さて、実際の「相対的貧困率」の算出方法というか、計算方法ですが、
「世代の可処分所得を世代人員の平方根で割って調整した等価可処分所得の中央値の半分」
に満たさない世代員の割合…のような計算式で算出されるそうです。
ぉぃぉぃ、なに言ってるんじゃ…な方もいるかと思いますので、ちょっと軽く解説します。
まず、「可処分所得」というのは、意味合い的は、「実際に使える所得」のことです。
「え?実際に使えない所得ってあるの?」という話なんですが、まあ、あるのですね。
例えば「100万円を稼いだ」時に、その100万円を全部使える…というと、
そういうワケではないのですね。
所得税・住民税・社会保険料・固定資産税などのお金が国や自治体などに取られますので、
実際に稼いだ金額よりも、手に入れられる金額は少なくなります。
一番安直な言葉で言えば、この「可処分所得」というのは、「手取り」のようなものですね。
で、ここは「可処分所得」を世代単位で見ています。
実際に基準として使われる「等価可処分所得」とは、
「一人当たりで割り算」ではなく、人数の平方根で割って計算されるインデックスですね。
なぜこのような計算にしているかと言うと、
例えば年収300万円の夫と、年収300万円の妻の場合を考えましょう。
この二人が別々に暮らしている時に、
別々の物件で住んで、別々の冷蔵庫を持って、別々のインターネットを利用して、
別々のパグ犬を飼う、水道も光熱費も通信費もえさ代も倍掛かりますね。
暮らしていく上に、「別々に暮らしている」と、いろいろ効率が悪いのです。
しかし、「一緒に暮らしている」ということになると、1世帯二人の収入600万円だと、
1人あたりの住居コストも下がるし、冷蔵庫も一個でOK、ネットも二人一緒に使えばいいし、
風呂も一回溜めて二人で入れるし、無論一人当たりの光熱費も下がります。
パグ犬も二人で一匹でOK!なのだ。
一緒に暮らしているだけで、「実質上使える金が増える」…ということになりますので、
比較的に「裕福」になりますね。
簡単な例で言うと、500万円の年収の4人家族ならそこそこな生活が出来るけど、
年収125万の人が1人1人別々に暮らすのは結構キツイ…ということですね。
この「等価可処分所得」の計算式では、
5百万で4人家族の時は、「5百万/(√4)=5百万/2=250万円」ということになります。
つまり「5百万で4人家族」というのは、「250万円の1人暮らし」に相当している…って感じですね。
なぜ「世代単位、人数の平方根」で計算された「等価可処分所得」を貧困の基準にしたのかというと、
以上の理屈が理由かと思います。
ちなみに、この計算式では、1人あたりの(算術)平均所得が等しいと仮定した時、
大家族よりも核家族、核家族よりも独身のほうが、比較的に「貧困」とされる可能性が高い。
さて、この等価可処分所得の「中央値の半分」なんですが、
まず「中央値」から説明します。
「中央値」と言うのは、統計学で出てくる言葉で、お友達に「平均値」と「最頻値」があります。
適当に例を作って説明します。
例えば等価可処分所得を統計してみたい…ということで、こんな結果を得られた。
「100,150,200,250,400,450,500,600,600,1200,5000(万円)」だとしましょう。
「平均値(算術平均)」は、説明するまでも無いと思いますが、「和を数で割る」ですね。
つまり(50+100+200+250+400+450+500+600+600+1200+5000)/11=850万円ですね。
次に本題の「中央値」ですが、これは数値を並べた時、丁度真ん中…の数値ですね。
今回で言えば、全部で11個ありますので、前から数えて6番目…つまり「450万円」ですね。
「最頻値」は最も出現頻度の高い数…ということです。
この例では、「最頻値」は2回現れた「600万円」です。
「等価可処分所得の中央値の半分」というのは、
まず各世代の「等価可処分所得」を並べ、そして丁度「真ん中」の中央値を推定した後、
その所得の半額…が貧困であるかどうかを判定する基準になります。
ということで、先ほどの例なら、中央値は「450万円」なので、
基準となる金額は(450万円/2)=225万円となり、
この例だと、貧困とされているのは「100,150,200」の三つの世代ですね。
で、相対的貧困率は3/11=27.2%…と思うかもしれませんが、
実際に計算されるのは世代比率ではなく、人員比率なので、
世代数ではなく、人数で計算する必要があります。
例えば各世代の人数はこんな感じになっているのであれば、
100:1人
150:2人
200:3人
250:4人
400:3人
450:2人
500:1人
600:2人
600:3人
1200:4人
5000:3人
「貧困の世代員」は「100:1人、150:2人、200:3人」の六人であり、
これを総人数の28人で割ると、相対的な貧困率は21.4%に成ります。
次に、このインデックスのどれくらい意味を持つか…についてですが、
これだけを見てなにか判断するのは、なんか色々微妙…のような気がします。
この類のインデックスについて、ぉぅぇぃの基本スタンスは、「盲信してはならない」ですね。
いつも思い出すのは、ぉぅぇぃの大学院在学中の出来事です。
ぉぅぇぃ出身の台湾では、国民の生活レベルを評価するためのインデックスとして、
「痛苦指数」というものが結構流行っています。
ちなみに「痛苦指数」は中国語で、英語は「Misery index」で、
日本は「窮乏指数」「経済不快指数」と翻訳されているようです。
どうやって計算しているかと言うと、「物価上昇のインフレ率と失業率を足す」…だけですね。
ある時、当時ほかほかM1のぉぅぇぃはある授業で、
経済をこの「痛苦指数」で分析してみたが、
京大の教授に結構いろいろ質問されて、
最終的に「客観性に欠けている」「比較に適していない」などの理由で、怒られました。
台湾政府が出す統計年報に出るほどの数値ですし、
ぉぅぇぃも台湾の国立大学の経済学部でコレを学んだのですが、
日本では全く認知されていませんし、信じられてもいないようです。
その時で学んだことでは、「インデックスを鵜呑みするな」、
「計算の意味を解明せずに、インデックスの数値を持ち出すな」
「認知度の低いインデックスを取り上げて、数値だけを強調してはなら無い」など、
まあ、留学したてのぉぅぇぃにとっては、色々勉強になった出来事ですね。
で、今回の「相対的貧困率」ですが、
ぉぅぇぃは最終数値だけを使って何かを判断するのは不十分…と考えます。
貧困であるかどうかを判別するために、もっと色々なデータが必要です。
もうちょっと、色々なデータで総合的な判断を下すべきじゃないでしょうか?
例えば国民所得の配分は1万円、3万円、3万円、5万円、7万円で、
頑張って働いても、食べ物を買う金がないA国があるとしましょう。
そしてB国の国民所得は200万円、200万円、500万円、700万円、700万円で、
働かなくでも飲み食いに困らず、住む場所も確保されている。
この場合、A国の相対的貧困率は20%で、B国は40%になるので、
どうやら比較的に裕福なB国の国民は、
飲み食いに困るA国国民の倍くらい「相対的貧困」らしい。
さらに、例えば独裁国家のC国では、所得はすべて独裁階級に独占され、
他の国民は全員貧乏。
所得の配分は「1ドル、1ドル、1ドル、1ドル、3兆ドル」だとしたら、
あ~ら不思議、基準となる中央値は1ドルで、その半分は0.5ドル、
0.5ドル以下の収入の世代はありません…ので、
従ってこの国の「相対的貧困率」はなんとゼロ…になるんだよね。
客観的にどう見ても全民貧困…、餓死する人が多い…だとしても、
特定のインデックスで見たら、貧困層は1人もいなく、結構幸せ…という結論に至ってしまいます。
しかし、確かにこの「相対的貧困率」というのは、本当に「貧困」であるかどうかはともかく、
所得配分の傾向(バラツキなど)を見るために、一定の評価が出来ると思います。
但し、なぜ所得配分のバラツキが大きくなったかの原因・理由を思索しないと、
最近流行っている「格差問題」はそう簡単に解決できない…のような気がします。
個人的に、所得配分のいわゆる「格差」が広まったのは、
国民一人ひとりの能力、特に「付加価値を生み出す=お金を稼ぐ」能力の差が広まったことが、
もっとも根本的な原因・理由じゃないかと思います。
残念ながら、高度成長期は終わっているし、急成長の時期の「人手不足」は望めない。
国も大企業も中小企業もコスト削減のために、
誰でも出来るような簡単な仕事はどんどん機械やコンピュータに奪われています。
もはや、「誰でも良いから」の「猫の手」需要はかなり少なくなっているのですね。
で、この問題を解決するための糸口は、やっぱり「教育」じゃないかと思います。
「高い付加価値を生み出せる人=高賃金を稼げる人」の数を増やすことが重要になります。
但し、かな~り気長にやらないといけないし、効果もスグには出ないので、
まあ、色々難しいのですね。
なにはともあれ、一つの数値を持ち出して、
「相対的な貧困率は15.7%だから、酷い数値だ」とか、
「日本は7人に1人、約2,000万人の国民は貧困である」という結論を導き出すのは、
やや論理が飛躍しすぎ…のような気もします。
小心者のぉぅぇぃなら、なんらかの判断を下すのであれば、
仮に他の客観的なデータが無くでも、
せめて数値一つだけではなく、等価可処分所得の全体グラフを見る…とか、
あるいは国別のグラフ比較をする…とか、それくらいしないと、
一つの数値だけで何かのことを言い切るのは、かなり勇気が必要です。
最後に、半年前に書いた記事ですが、
それを引用して、今回の「日本は貧困」の騒ぎを締めたいと思います。
→普通の国で生まれてきたという幸福
もしあなたは大病が無く、朝起きられるのであれば、おめでとう。
全世界で、約百万人は今日からの一週間の間に、亡くなってしまいます。
もしあなたは今まで、戦争・不当な監禁・飢餓・寒冷に苦しまされることが無いのであれば、おめでとう。
あなたは少なくても5億人の人よりも幸せである。
もしあなたは宗教活動に参加するときに、邪魔されず、逮捕されず、陵辱されず、殺されることが無いのであれば、おめでとう。
あなたは30億人よりも自由である。
もしあなたの冷蔵庫の中に食べ物があり、着る服があり、住む部屋があるのであれば、おめでとう。
あなたは全世界の75%以上の人よりも富裕です。
もしあなたの銀行口座の中に残高があり、財布の中にお札が入っているのであれば、おめでとう。
あなたは全世界トップ8%のお金持ちだ!
もしあなたはこの文章を読むことが出来るあれば、おめでとう。
20億の人は、そもそも文字を読むことが出来ない。
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