各種鮨種について-鮭(さけ)

鮭(さけ)
 海にいる間のものに限る。いったん川に遡上してしまうと極端に不味くなる。時期はずれの5月~7月に北海道太平洋沿岸,日高の沖で獲れるのを時鮭(ときしらず), 10月~11月に,ホーツク沖で水揚げされる秋鮭の中に,数千に一匹の割合で入るのを鮭児(けいじ)といって,海で獲れる成長途上の若い鮭は珍重される。
 鮭は世界中で好まれるが,臭いの強い魚で,死んだらすぐに鰓から腐臭が漂いはじめるので活き締めにすべきだと思う。ハラスと言って腹のトロの部分も最近は握り鮨になっているが,臭うものが大半である。川と海を往来する鮭には寄生虫が多いので,生食するときは必ず一度冷凍して虫を殺してから食べる。アイヌのルイベは,半分解けかかったものを生姜で食べるので美味いが,冷凍して流通したものを店で完全に解凍して,しばらく放置される魚が美味いわけがない。一度生のキングサーモンの大トロの部分を炙ってミディアムにして,レモンと塩で握ったものを食べたが,これは美味かった。しかし解凍の生では駄目である。富山の鱒のすしを真似たのかもしれないが,鱒と鮭は匂いがかなり違う。江戸前鮨としては邪道中の邪道であると思う。だいたい,一流の鮨屋で鮭など見たことはない。盛り合わせに入ってたら,できるだけ避けている。
 保存食品としての塩鮭にも品質はピンからキリまである。塩してきちんと保存したものは,大変美味い。焼いた塩鮭は,お茶漬けやおにぎりや弁当のおかずには最高である。北海道の魚市場から上質の塩鮭を送ってもらって,家で焼いて比べると,スーパーに流通している多くの塩鮭が,すでに終わっているものであることが分かるだろう。鮭本来の匂いと,鮭の腐臭とは異なるのである。
 上述のように活きの良いものを上手に炙ったり,きちんと熟成された上質の塩鮭なら,どうにかアレンジすれば,鮨にできるかもしれない。鮨との関係は今後の大きな課題である。筆者は恩師にアラスカの鮭釣りに連れていってもらったが,ふた夏にわたって,キング(ますのすけ),シルバー(銀鮭),レッド(紅鮭),ピンク(樺太鱒),チャム(白鮭)など,それぞれ異なる個性の何十匹を飽食して得た結論は,臭いが強く個性が強すぎて,料理方法が本質的に難しい魚だということである。

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