(4)醤油(しょうゆ)
鮨の付け醤油は,本醸造の上質なもので,少し濃い方が良い。職人の符牒は,その色から,「むらさき」という。銚子あたりで良いものが作られている。関西式薄味醤油などはもっての他である。江戸前の鮨飯は十分塩が効いているので,香り付けにちょっと付ける程度にする。握り鮨を手で持ったら,ちょいとひねって身の表面の端っこに少し付ける。軍艦巻きや細巻きは,海苔の下の方に少し付ける。軍艦巻きを傾けると崩れ落ちるならば,醤油差しで上から少し垂らしても良い。いずれも,醤油はあくまでも香り付けである。鮨飯を醤油に浸して小皿に飯粒が崩れ落ちるような食べ方は行儀が悪い。
醤油に味醂,出汁,酒などを加えてひと煮立ちさせたものを「煮きり」という。平目,コハダなど,鮨種全般に塗るものである。筆者は多くの場合,すっきりと醤油とワサビだけを好む。
さらに,穴子などの煮汁を煮詰めたものを「ツメ」と言う。醤油ベースの,味醂や砂糖でとろりと甘くしたタレである。穴子や煮蛤には,きちんと作ったツメが欠かせない。
醤油の文化的起源は中国だが,伝統的な日本の醤油は,日本独自のものとして完成しており,食卓調味料の世界最高峰の一つである。