海産資源の減少 その1

今は世界中でSushi(すし)ブームで,漁獲高が爆発的に上昇し海産物の価格も高騰している。最近では鮪の漁獲高の制限枠が削減され,国内でも大きなニュースになっている。健康的な食品でもあると信じられて,各国でSushiが普及するにつれ,技術進化による大量消費が進み,地球環境の破壊が進んで,日本の食文化は相対的にも連鎖的にも,縮小の一途を辿っている。

食文化は,その民族がその土地で自然と共生しながら構築してきた,日常の慣習から思想哲学までを含むものである。茶葉と茶道との関係や,地域の食と祭りとの関係を考えても分かるように,自然的要因や歴史的慣習を基に,延々築き上げられてきた意味の総体がある。形骸だけの模倣を否定はしないが,その行為が環境破壊につながり,結果として,自文化にとっての脅威になるならば,断固反対の立場を取りたい。

例えば,江戸前鮨で有名になり,日本中の山村にまで普及した鮪(マグロ)について考えてみよう。江戸時代は,鮪は下魚とされていたが,天保15年(1844年),江戸・馬喰町の恵比寿鮨が,大漁で値下がりしたときに醤油漬けにして売り出したところ好評を博し,それが爆発的に江戸の鮨屋に普及した。鮪は絞めてから一日から二日で熟成して食べ頃になる魚である。江戸の海で獲れる鮪を醤油とともに保存し熟成させて,数日の間に食べるというのが,この鮪の「ヅケ」である。このように当初は,「美味い」という,江戸の庶民の価値判断によって,鮪の鮨が流行し,普及して定着したのである。

その後,高度経済成長によって人々の生活は豊かになり,冷蔵と冷凍と流通が発達して,マグロという魚を腐らせずに食べることができるようになった。当然そのことは,天然資源であるマグロの大量消費という量的拡大を招いた。回転鮨で周回している解凍マグロが不味いことからもわかるように,冷凍は食材の細胞膜を壊し本質的な味わいを破壊する。量的拡大は,マグロの本当の美味さを楽しむことではなく,「マグロを食べる」という「象徴的行為」の地域的,あるいは社会階層的な広がりであった。そしてそれは質的な転換でもあったのだ。冷凍し解凍されたマグロはもはや本来の味わいなど無く,すでに真の意味での「マグロ」ではなくなっていた。

現在,東京の一流の鮨屋で出される近海もののマグロが高価なのは,冷凍ではなく高度な冷蔵技術により本来の美味さを保てるようになったからである。ものの味の分かる人たちが,冷蔵と冷凍の差異を認識し,例え高価になろうとも,一流の鮨というものを継承し発展させてきた。

この食文化における「形骸的で爆発的な量的普及」と,「質的な継承・発展」との間には大きな違いがある。冷凍して味の劣化した形骸しか残らぬ鮪を,世界中の海から徹底して大量消費したのは,本質を理解しない日本の大衆が最初であった。そしてそれが今,台湾から中国へ,あるいは欧米へと量的に拡大している。

「鮪は美味い」,「高級だ」,「贅沢だ」,「健康的だ」などという言説のみが蔓延し,「味」という食文化の本質は無視され,それを食べたところで鮪の本当の美味さを実感することなど不可能な冷凍の鮪が普及している。そしてこの背景にある巨大資本による大量乱獲は消費者を煽ってさらなる拡大を続け,天然資源の減少と環境破壊を加速している。民族にとって重要な食文化が,味覚という本質を除外した近代資本主義の大量消費の構造,即ちフーコーの言う「権力(パワー)」によって,世界規模で破壊され続けているのだ。

筆者が本ブログで食文化の本質を追求し,本物を紹介している理由はここにある。我々人類が偽物贋作に惑わされない程度に知識を得て,本物だけを食せば,環境は今よりも多少は保護できるはずだと信じるからである。今や本物は高価であるが,一方で,「カロリーメイト」,「シリアルバー」,「即効元気」,「10秒メシ」というような,栄養補給のためだけの宇宙食のような食事も普及してきた。食を楽しむのは月に一度で良かろう。そのときだけは本物を追求し,普段は環境への配慮をしながら,日々を闘うエネルギーを効率よく摂取すれば良い。人類はすでにそのところまで来ている。

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