各種鮨種について-鯵(アジ)

鯵(アジ)
 真鯵である。夏が旬と言われるが春先と秋でもそれぞれに美味いと思う。これも季節と産地でかなり味が異なる。相模沖のものは,身がとても軟らかく,脂もほどほどに乗っている。身と脂とは溶け合って別の次元で融合し,口中で全てが混然一体となり米とともに溶けていく。握り鮨とたたきにするならば,相模ものが世界で一番美味い。また,九州から玄界灘のものは,相模のアジとは別物で,あっさりとしており,身が引き締まっている。和歌山沖から瀬戸内の近畿圏のものは,焼き魚にしたら出汁が溢れ出てくる。
 20cm超くらいのサイズのもので,片身で握り1カンになる程度が鮨には丁度良い。これを三枚におろし,皮をはいで骨を抜いてから,生姜を漬け込んである酢に一瞬だけくぐらせる。この酢に入れる時間はせいぜい30秒。砂糖の入ってない二番酢で,生姜を漬けてある酢でなくてはいけない。この,一瞬酢に入れるのがコツなのだが,30秒と1分ではかなり変わってくる。そして,握りにしてから,新鮮な細い葱(わけぎやあさつき)とおろした生姜を載せ,醤油をちょっとつけて口に入れる。葱は,あさつきくらいの細さのものが良いようで,芽葱になると繊細すぎ,いわゆる万能ねぎでも下品になり,白葱では強大すぎる。葱は葱自身を主張する程度に,瑞々しく香り立ちながらも,出しゃばり過ぎることなく,繊細なアジを引き立てなくてはならない。裏の畑で取ってきたばかりの新鮮な葱が必要である。
 30cm以上の大き目のアジも,切り身で握るとそれなりに美味いが,一口大の相模ものに勝るとは思えない。相模近辺に行ったら,アジばかり集中的に食べることにしている。

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