有名なカワサキZ1Rのカタログの写真。
ポルシェ911は,リアエンジン/リアドライブという,自動車工学的見地からすると,極めて運動性能の悪い,無理のある設計でこの世に生まれた。発売当初の911は,フロントが軽すぎるので,バンパーに11kgものウェイトを仕込んでいたほどである。爾来,ポルシェの技術進化は,リアエンジン/リアドライブという基本設計との闘いであった。
空冷カワサキZのなかで,設計の甘さによって操縦安定性の悪いのがZ1Rだ。1972年のZ1,1973年のZ2の登場から5年後の1978年,カワサキZのデザインはそれまでの曲線的デザインから,突如として角型デザインへと変更された。後に,Z1000Mk.II,Z1000Rへと続く角型基調のデザイン,第二世代の空冷Z,通称角Zのグループである。
角Zの尖兵はZ1Rで,直線基調のシャープなデザインは欧米で絶賛された。しかし,前輪を18インチ化して大型のカウルを装着したことにより,ハンドリングに問題が生じ,高速走行が不安定になった。それゆえ,リコール騒動まで起こったという。現地販売価格が高価であったこともあいまって,販売台数はさほど伸びず,総数約1万7千台に留まった。(後に前輪19インチ化され,エンジンが角ヘッドになったZ1R2を含めると総数20,069台)
新発売当初から,リアエンジン/リアドライブというポルシェ911が,「十字架を背負って生まれてきた車」と称されるように,カワサキZ1Rは,まさに,「十字架を背負ったZ」であった。そのZ1Rの新発売時のカタログ写真が,ポルシェ911と並んだものであるのは,皮肉としか言いようが無い。
しかし,そのように,個性が強い一台であるからこそ,歴史を超えて,多くの人々に愛されるのだろう。今なお空冷911が多くの人に愛されるように,Z1Rには,熱烈なファンが多い。
かく言う筆者も,京都コンピュータ学院自動車制御学科 自動二輪特論Iで,学生さんたちとZ1Rをカスタムしている。フレームがやっと出来上がって,パーツ類のバフがけも済んでいる。後はエンジンの組立てと外装セットの塗装である。
ポルシェ911はKCGと同い歳である。そして,来年,カワサキZ1Rは誕生より30年の歳月を迎える。歴史を超えて残ることの意味を考えさせられる。