カワサキZ1が世界で一斉を風靡していた一方,国内では「メーカー自主規制」という名の官僚による強要のような指導があった。「大排気量は危険だ」という理由で,国内では750cc以上は発売できなくなっていた。そして,Z1の国内仕様である,排気量750ccのモデル,「カワサキ750-RS」が開発・発売された。これが「カワサキZ1」に対して「カワサキZ2」と呼ばれたのである。
Z2エンジンは,Z1エンジンを基本に,クランクがショートストローク化されており,シリンダー内径とピストンが異なる。ボアとストローク,クランク,キャブに至るまで入念に再検討されたことにより,結果として,本家Z1を上回るほどのバランスの良いオートバイになった。(月刊オートバイ05年3月号付録歴代名車カタログファイルVol.4.)
カワサキの国内向け750ccオートバイは,後にZ650のやや小ぶりなエンジンに取って代わるので,Z1という天下の名機を基礎にした750ccオートバイは,このZ2Eで始まる番号のエンジン一機種を搭載したものだけである。
いつの時代も,官僚は現実社会を知らない。出力や性能は,排気量という単一の尺度で規制できるものではなく,チューニングの度合いや,車両全体としての性能によって,危険性の度合いは変わる。それを知らない馬鹿げた官僚指導の結果,Z2(ゼットツー,ゼッツー)という,特殊な国内向けモデルが誕生し,それが熟成を重ねたバランスの良いバイクとして生まれ,さらには,それらが故に,数々の伝説と神話が生まれることとなった。政府の馬鹿げた指導が,図らずも別の価値を創出したのである。
世界を席巻したZ1のボアダウンバージョンであるZ2は,海外でのZ1人気を背景に,国内には大きな衝撃をもたらし,そして,ホンダのCB750とともに,日本独自の「ナナハン文化」を創っていった。「オートバイの最高峰,最上の価値は,ナナハン」という観念である。
カワサキZ2の型式等は以下の通りである。
⑤Z2(750-RS) 1973年1月より
・車台番号
試作車 Z2F 00001~00025?(プロトタイプとして,20台程度が試作されたという。筆者の知人・友人が16番~19番などを確認している。また,2番のフレームを確認したという話もある。)
市販車 Z2F 00026~(運輸省認可型式はZ2)
・エンジン番号 Z2E 00001~
・総生産台数 3662台(カワサキの発表による最終番号は3699)定かではない。
⑥Z2A(750RS) 1974年-1975年
・車台番号 Z2から連番(運輸省認可型式はZ2)
・エンジン番号 Z2から連番
・総生産台数 下記文献等には6049台とあるが誤りであると思われる。正確には不明。Z2F-15900番台が確認されているので,12000台程度とも推測できる。また一説には,1万6千100番台でエンジン番号が+34番というのがあるという。
⑦Z750A4(Z750Four) 1976年
車台番号 Z2F-19582まで。始まりは不明(下記文献にはZ2F-18403~とあるが,筆者は1万6千6百番台のZ750A4を確認している。Z2から連番かどうかも定かではない。Z2Aから連番だと思われる。運輸省認可型式はZ2。)
エンジン番号 Z2から連番。
(総生産台数1万6千番あたりから始まったとすると約3200台かと推測できる)
⑧Z750A5(Z750Four) 1976年
車台番号 Z2F-19583 ~ 22400(A4から連番。運輸省認可型式はZ2)
エンジン番号 Z2から連番。
(総生産台数 2817台)
⑨KZ750 D1(Z750Four) 1977~78年
車台番号 KZ750D-000111~002300(運輸省認可型式はKZ750D)
エンジン番号 Z2から連番
(総生産台数 2189台)
⑩KZ750D2(Z750FX) 1979年(1月~8月)
車台番号 KZ750D-003901~(運輸省認可型式はKZ750D)
エンジン番号 Z2E024801~
(総生産台数 2185台)
*エンジンの外観はZ1000Mk.IIと同様だが,クランクケースは旧来のZ2とほぼ同じ。
⑪KZ750D3(Z750FX) 1979年10月~1980年4月
車台番号 KZ750D-006301~(運輸省認可型式はKZ750D)
エンジン番号 Z2E-27201~
(総生産台数 850台)
*Z750FXのD2と大差はないが,クランクケースが改良されており,Z1000Mk.IIと同じものになっている。つまり,エンジンはZ1000Mk.IIのボアダウン仕様である。外観では,ヘッドライト下にKAWASAKIのロゴの入ったオーナメントが付くといった程度。
輸出モデルであるZ1は,Z1AとZ1Bと三種に分類されたが,国内向けZ2は最初のZ2とその後のZ2Aに分類された。(Z2Bという呼称は,マスコミやマニアなど一部の部外者によるもので,カワサキ社内ではZ2Bという分類はされなかったようである。)
Z750A4という命名は,輸出モデルがZ900A4となったことと連動しているのだが,運輸省認可上は,型式名は変わらず,フレーム番号はZ2Fになっている。従って,750ccモデルは,第三のグループがA4と命名されたという,妙な現象が生じた。
輸出モデルの国内向けバージョンのZ2は,生産台数も少なかったので,輸出モデルであるZ1があくまでも主流であり,国内向けモデルであるZ2はいわば片手間に生産されていたのは明らかである。従って,輸出モデルの型式名が少々変更されても,国内向けにはよほどの違いが無い限り,即ち,運輸省の認可を得る必要の無い程度の変更ならば,同一型式で生産・販売されたのだろう。
参考;
別冊MOTORCYCLIST 1990年2月号 №138八重洲出版 1990年
Z1・Z2の神話–誕生の真実 全記録–スタジオ タック クリエイティブ2006年
★★★★★
文中間違いや誤解があればご教授くださると幸甚です。
空冷 カワサキ Z1,Z2,Z1000R,のカスタム@京都コンピュータ学院自動車制御学科
KCG レーシング
日本最初の自動車制御学科
京都コンピュータ学院
京都情報大学院大学