フェアユースさせていただきます。(笑
今後,人類の知がどのように変わっていくかと言う,極めて「微妙」な世界史の断面です。
以下,引用。
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http://event.media.yahoo.co.jp/nikkeibp/20090611-00000000-nkbp-bus_all.html
Googleのブック検索は、日本の出版業界をどう変えていくか?
(佐々木 俊尚=ITジャーナリスト)
5月11日、Googleは「Googleブック検索」の年内提供開始を目指し、出版社向けの窓口ページを公開した。これは全世界のあらゆる書物をデジタル化し、オンライン上で公開するという壮大な計画の一環。国内の出版社はGoogleとの和解を拒否した場合のコスト・手間を考え「渋々応じる」という構えが主流になりつつあるが、詩人の谷川俊太郎氏など著作者の中には徹底抗戦の構えを見せる人もある。窓口ページから1カ月が経過した現在、この騒動のまとめとGoogleの真意を探ってみたい。
Googleブック検索が挙げる利益の63パーセントは著作権者に
まずは経緯をかんたんに振り返っておこう。
Googleブック検索はハーバード大学やスタンフォード大学、慶應大学などどともにスタートしたプロジェクトで、これらの大学図書館が所蔵している書籍をスキャナーで読み取り、OCRによってテキストにするというものだ。そしてこのテキストをデータベース化し、全文検索ができる仕組みになっている。ブック検索のウェブサイトでは日本語も使用可能で、著作権者が許諾しているものに関しては検索結果に書籍の全文表示や抜粋表示も行なわれている。
Googleはすでに700万冊のスキャンを終了しているというから、膨大な数だ。そしてこれらの書籍の中から、絶版になった本や著者の許しを得たものについては、検索結果に全文を表示できるようにしている。一般の書籍に関しては全文表示は行わず、書籍の情報や数行の抜粋だけを表示させる仕組みだ。
このブック検索に対して、米国作家協会と全米出版社協会が「ビジネス目的で勝手にスキャンしてコピーしている」と著作権侵害で訴えた。Googleは「フェアユースだから問題ない」と反論。「フェアユース」とは公共の目的であれば、著作権者の許可がなくても著作物を利用できるという規定で、日本の著作権法には存在しない。
この裁判は昨年(2008年)10月に和解した。Googleは、絶版の書籍に関しては次のようなことができるようになる。
(1)オンラインで書籍の内容を販売できる。
(2)図書館や大学から書籍の内容に無料でアクセスできるようにする。
(3)ウェブで表示される書籍のページに広告を配信できる。
ただし絶版になっていない通常の書籍に関しては、これらの項目がそのまま当てはめられるわけではなく、著者の側の都合によって選択することになる。そしてGoogleがこのビジネスによって得る収益のうち、63パーセントは著者に支払われる。つまり残りの37パーセントをGoogleが取るということだ。
和解案の欠陥さえクリアすれば、それを受諾しない論理的理由はない
著作権者が和解案を呑むか呑まないかは、今年9月末までに決めなければならない。呑めば63パーセントを受け取り、自分の書籍がブック検索でどう扱われるかを決める権利をもらえる。呑まずに和解案から離脱すると、Googleに自分の書籍が利用されることはなくなる。しかし完全にGoogleと縁が切れるかというとそうでもなく、大学や図書館での全文検索や抜粋表示など、フェアユースとしてGoogleが裁判所に認めてもらっている部分に関しては利用されてしまう。
問題は、この和解案が世界中の書籍に適用されてしまうということだ。大雑把にいうとベルヌ条約を批准している国の書籍すべてが対象になる。日本はベルヌ条約批准国であるから、当然日本の書籍もブック検索対象に含まれるわけだ。
この結果、あまりデジタル化に熱心でなかった日本の出版業界は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。「書籍の販売が難しくなる」「作家や出版社の利益にならない」「なぜ私企業が勝手にやるのか。公的機関に任せるべきだ」など、さまざまな反発が巻き起こったのである。
たとえば和解案からの離脱を会員に呼びかけている日本ビジュアル著作権協会は4月30日に記者会見し、その中で作家の三木卓氏がこう述べている。
「著作者にも問題ですが、出版社にも問題です。出版社はみんなにいいものを書かせようとして、いっぱいお金を使って一生懸命、出版文化を支えているのに、Googleがそのいい部分だけをさらっていくのは問題です。(中略)Googleに対しては怒りを覚えています」。
もちろん、この和解案には重大な欠落がある。「絶版書籍」が「米国で流通していない書籍」として捉えられているため、日本では普通に売られている本まで絶版書籍にされてしまっているケースが起きているのだ。中小出版社98社で構成する出版流通対策協議会が会員出版社にアンケート調査したところ、会員出版社で刊行している約5000点の書籍のうち約90パーセントが和解案でリスト化されていたという。
これはたしかに大問題だ。ただし米国の裁判所の和解管理人は、今後はAmazon.co.jpで販売されているかどうかなども絶版の基準として含めていくと明言しているという。だからこの問題がクリアされてしまえば、実のところ和解案を受諾しない論理的な理由はほとんど存在しない。――感情的な反発は別にして。
書籍全文検索は社会にとって非常に有意義なプロジェクト
そもそもブック検索によって、どういう利益・不利益があるのかをもう一度捉え直してみよう。
このインターネット時代には、検索できない情報はもはや生きた情報とはいえない。ネットの普及によって、情報は検索できるのが当たり前になった。ウェブサイトやブログ、新聞記事、動画、音楽などありとあらゆるコンテンツをわれわれは検索システムによって探しだし、楽しんでいる。
だが、これまでは書籍だけは検索が不完全だった。本のタイトルや著者名、出版社などは検索できるが、全文検索に関してはAmazon.co.jpの「なか見!検索」に一部の書籍が対応しているだけで、日本で刊行されている大半の書籍は全文検索ができなかった。
これは著しく利便性が低い。もし現在流通しているベストセラーなども含めて、書籍の全文が検索できるようになれば、書籍文化にとっても社会全体にとっても、非常に有意義である。たとえばGoogleの和解案を歓迎しているポット出版は、ウェブサイトでこう表明している。
「すべての人が、書籍の書誌情報(タイトル・著者名など)だけでなく、その全文にたいして一定の言葉の存在を検索できることは、その人にとって有用な書籍を『発見』する手だてを格段に増やし、そのことで、社会全体でさまざまな知の共有が前進すると思う」。
社会にとっては書籍全文検索は非常に有意義なプロジェクトであるのは間違いない。そしてこれは著者の側にとっても同様だ。そもそも自分の著書が検索エンジンによって、有用な知として活用されることを望まない人はいないはずである。さらにいえば、全文検索によって書籍文化が破壊されるとか、本が売れなくなるというような反発にはまったく根拠がない。
Googleは独占的な地位を得たわけではない 結局のところ、出版業界や著作権者からの批判は、先の三木氏のような「勝手に金儲けしやがって」という感情的な反発が大半である。
しかしこの資本主義世界では、何らかの有用な新しいサービスを提供するのであれば、そこに収益モデルを付与するのは当然のことである。おまけにGoogleはこのプロジェクトによって、すべての利益を奪い取ってしまうわけではない。先に説明したように63パーセントを著作権者に分配するレベニューシェアモデルを採用しており、検索によって書籍に対する読者のアクセスが増えていく可能性を考えれば、これは両者にとってはWin-Winの関係になる可能性がきわめて高いのだ。
さらにいえば、今回の和解案でGoogleは独占的な地位を得たわけではなく、ブック検索ビジネスの展開は他の企業にも開かれている。おそらくこうした感情的な反発は徐々に沈静化し、今後は誰もが気軽に書籍を検索して自分に有用な書籍を探し出せる時代がやってくるのは間違いないはずだ。
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佐々木 俊尚(ささき・としなお) 1961年生まれ。早稲田大学政経学部中退。毎日新聞社会部記者、月刊アスキー編集部デスクを経てフリージャーナリスト。主な著書に『グーグル既存のビジネスを破壊する』『ネット未来地図』『ブログ論壇の誕生』(以上、文春新書)、『フラット革命』(講談社)など。IT戦略会議専門調査会委員、総務省2009年度情報通信白書編集委員、経済産業省情報大航海プロジェクト制度検討ワーキンググループ委員などを務める。
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