各種鮨種について-鰯(イワシ)

鰯(イワシ)
 マイワシもカタクチイワシも,今まで泳いでいたような新鮮なものを開いて葱と生姜をおろしたので握り鮨にするとすこぶる美味い。ただし,古いとかなり臭うようになる。活きを開いたらせいぜい3時間である。それ以上古くなると,食べられない。冷凍など煮ても焼いても食えない。イワシは新鮮でないならば,塩を利かせて干し固めた目刺のほうが遥かにマシである。

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各種鮨種について-鰹(カツオ)

鰹(カツオ)
 流行好きな江戸っ子は初鰹をもてはやすが,本質を知る人は秋の戻り鰹を好む。匂いが強いので,生姜と葱をたっぷり振ってポン酢で食べるのが一般的だが,鮨にするならば,葱とおろし生姜で醤油が良い。新鮮ならば山葵と醤油でも良い。勝浦ではケンケンカツオといって,船で活け締めにした美味いのが揚がる。しかし高知で,ニンニクと葱と生姜と,地元の美味いポン酢で食べる新鮮なそれは,男気溢れる圧倒的な迫力を感じさせる。塩を擦り込んで表面を焼いて,それだけという食べ方もある。高知で食べるカツオの凄まじさを知った後は,他所で食べる気がしなくなってしまった。カツオは土佐の男のもんじゃきに。

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各種鮨種について-カジキ

カジキ
 カジキマグロなどと言われてマグロの代用品のように扱われることもあるが,頭つきで流通している近海ものならば,マグロとはまた別の味わいがある。マグロを比較対象に持ってこずに,これはこれであると思って対峙することが大事である。マカジキは脂が少なく,ピンク色の肉が美しい。バショウカジキは少し繊維質である。シイラとともに,ルアー釣りの対象でもある。

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各種鮨種について-シイラ

シイラ
 鯛釣りで黒潮に出ると,高速で往来するシイラに会うことがある。日本海でもよくお目にかかる。アメリカではマヒマヒと言って,シーフードレストランの定番メニューであるが,たいていは古くて臭うものを変な味付けで焼いている。どうして美味いものをわざわざここまで不味くするのかと疑問ばかり残る。
 ルアー釣りの好ターゲットで,釣り上げて死ぬまでの間に体色が虹色に綺麗に変化する魚である。新鮮でないと駄目だが,もちっとした歯ごたえでクセがなくて,刺身でも焼いても煮ても,さらりと美味くていくらでもいけてしまう。クセがなさすぎて面白みに欠けるからかもしれないが,鮨屋ではあまりお目にかからない。熱い夏の魚。

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各種鮨種について-鰆(サワラ)

鰆(サワラ)
 大きめのものは脂が均一に身と混じり合っていて,握り鮨でも,刺身でも,塩焼きにしても,西京漬けにしても最高である。春の魚ということになっているが,実は夏から秋にかけて脂が乗ってきて美味い。1mくらいのが握りには最高で,脂がほんのり甘く,軽く舞うように喉の彼方に消えていって,後には何も残らない。近年かなり減ってきているので,鮨屋で瀬戸内播磨灘の最上のものに出会うと,他のものには目もくれず,鰆だけに集中する。刺身と握りを堪能したら,頭とカマと腹のあたりを塩焼きにしてもらう。そして,残りの尻尾側半分は塩にして家に持ち帰り,伏見の酒でのばした京都の白味噌(砂糖や味醂は入れないほうが良い)に漬け込み,2~3日後に焼いて食べる。タイと並んで,それだけで全てが満ち足りていて完結する魚である。関東ではあまり食べられないようであるが,筆者は子供の頃から一番の好物だった。魚のプリンスである。

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各種鮨種について-カンパチ

カンパチ
 個体によって脂の乗り方に当たりハズレがある。ヒラマサと同様か,少し大きめの方が美味いかもしれない。こちらは秋が旬である。これも最近は養殖ものが中心で,いつでもお目にかかれるようになったが,天然ものにある筋肉の味に乏しい。天然ものの切り身に小さな穴が開いていたらアニサキスがいるので注意する。

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各種鮨種について-平政(ヒラマサ)

平政(ヒラマサ)
 王道中の王道と言おう。ハマチは無論,カンパチも遥か及ばない。夏が美味い。夏のヒラマサに冬のブリともいうらしいが,脂っこい寒ブリに対比するものなのかどうか。ブリに比べると,脂肪分よりもたんぱく質を感じる。鮨には60cmから80cmくらいのサイズが良い。締めてから一日半から二日,冷蔵庫に置いておくとアミノ酸があふれ出てきて,奥深い味になってくる。残念ながら,獲れる数が少ないのでなかなかお目にかかれない。ヒラマサにめぐり会えたら,こればっかり食べてしまう。女王の如く華やかな鯛に比べると,いぶし銀のごとく渋く,野趣に富んで,日本の鮨界に堂々君臨する魚の王である。

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各種鮨種について-鰤(ブリ),ハマチ,イナダ

鰤(ブリ),ハマチ,イナダ
 関東では,ワカシ,イナダ,サンパク,ワラサ,ブリ,と順番に出世していく。関西では,ツバス,ハマチ,メジロ,ブリ,となる。富山では,ツバソ,コズクラ,フクラギ,ハマチ,ガンド,ブリである。
 養殖が成功して普及したトップバッターで,天然ものを知らない人が多い。脂がべっとり乗った養殖ものと違って,天然ものは驚くほどあっさりしている。イナダ,ハマチと呼ばれる程度の大きさだと,釣ってそのままでは煮ても焼いても食えないというほど水っぽい魚である。天然ものの,50cm~60cmくらいのは,締めてから丸1日ほど冷蔵庫に置いておく。舞鶴あたりでツバスという小ぶりなものは,2日くらい冷蔵庫で寝かしておいても良い。すると,なにやら奥深い味が回ってくる。不思議なものだ。
 ブリと呼ばれる程度に大きくなると,脂が乗って濃厚になる。寒ブリと言って冬に一番美味くなるのだが,鮨には秋の脂が乗りかけのものが良い。天然ものは,脂が繊細にさわやかにとろけ,大トロのしつこさやくどさが全くなくて,クリアである。美味いのに当たったら,カマを焼いてもらっても良い。

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各種鮨種について-鰈(カレイ)

鰈(カレイ)
 ヒラメと形は似ているが,かなり異なる。星ガレイ,マコガレイなどが代表で夏が旬である。生で食べるとシコシコとして脂と旨みが混ざり合う。カレイ独特のクセがあり,煮付けにすると懐かしい家庭の味わいで,なにかほっとさせてくれるような魚である。
小浜に若狭鰈という干物がある。地元の人は甘鰈と呼ぶ。文字通り甘くて、他の種のカレイとは異なり,もちっとしている。一塩で一夜干しした後の,次の日が美味く,二日目になると駄目なので,車で一日で運べる距離圏内でしか美味くない。これを炙ってほぐし,握りにすると,上品で華麗な鮨になる。あまり知られてないが,関西の隠れた一品の最右翼。もちろん,炙ってそのまま食べても,繊細な味でこんな美味い干物があるのかと思う。一人で5枚くらいは軽くいけてしまう。

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各種鮨種について-平目(ヒラメ)

平目(ヒラメ)
 淡くとも滋味溢れる魚である。1月から3月までの寒平目は,産卵前で特に味が円熟している。淡白で奥深い,上質のヒラメの味わいがわかるには年季を要する。若い頃はこの美味さが分からなかったが,近頃ではヒラメを食べないと鮨を食った気にならない。この魚は生きているのをすぐに食べるよりも,締めてから半日から一日くらい置いたほうが,滋味が溢れ出てくる。昆布締めもさらに美味いのだが,しかるべき産地の,しかも職人が頃合を見計らったものは,昆布など合わせなくても,奥深い濃い旨みがある。天然ものは,砂地につく側が真っ白である。養殖ものは病気で裏側が白くないものが多いので見ればわかる。江戸前からそれより北の寒い地方のほうが美味い。とはいってもせいぜい樺太か千島列島までで,それよりベーリング海側になると味が変わる。回転寿司店や町の魚屋などで,オヒョウをヒラメとかカレイとか偽って出しているときがあるが,ベーリング海のそれは明らかに異なる水の匂いがする。

ヒラメの縁側
 そのまま握っても美味いが,軽く炙ってもらうのも良い。ヒラメの縁側は,鮨種のなかでも高価なものだが,もちろん,白身のヒラメが美味い店でないと,注文しても意味がない。ヒラメが美味いと思ったら,財布の中と相談して,縁側があるかどうか聞いてみることである。味覚の地平にまた一つ新しい広がりを発見することだろう。

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