愛しの彼女,音について,続きの続き

 最近のエンジンは,加工精度が格段に向上している上に,高度な制御技術のおかげで,まるでコアレスの電気モーターのように,とても滑らかに廻る。現行のリッターバイクや四輪のスポーツカーは,ZX12Rでも,ポルシェ911(水冷)でも,フェラーリ360も,時速50km程度では何も起こらず極めて平穏で,時速100kmでも鼻歌混じりで運転できる。そして,いざアクセルを全開にしたら,時速200kmどころか300kmを超える勢いで,滑らかに滑るように加速していく。シャーシも凄く良い。

 しかし,いったい,そんな速度,どこで出すのだ?高速道路は100km制限だから,一部の高速サーキットしかない。そして,そんな速度域で万一事故でも起こしたら,たとえサーキット内であろうと,確実にあの世行きである。

 最近,腕の良いプロが仕上げたZRX1200に試乗させてもらった。数年前に,あるショップでZRX1100の試乗をさせてもらったときは,あまり感心しなかったが,きちんと手を入れたそのZRX1200は,とてもよく出来ており,足も素晴らしくブレーキも良く効くし,運転しやすくて快適である。しかし,エンジンが電気モーターよろしく,あまりにも滑らかで,ウィ~ン,スィ~っと走っていく。景色が流れる速度がやたらめったら速くて,ひゃあ~速い!という以外に,他には何も感動がない。

 楽しい走りとは,絶対速度ではなく,その乗り物と道路と風景と自分の能力の相対的バランスの中にある。換言すれば,どんな速度域でも,それがその環境と速度域に合った乗り物だと,それは楽しいのだ。MGミジェットやヒーレー,トライアンフなどの60年代の小型オープンカーは,50km程度のスピードでも,とても楽しい。「一般公道を普通に,人間の制御だけで流していて,楽しいレベルの仕上がり」というものがあるのだ。そして,そのとき,自分を包み込む風の音と排気音。これが,自分好みの最適値であるかどうかが,化石燃料の乗り物を楽しむためには,最も重要な判断基準であると思う。我が空冷Zは,そこんとこが丁度良い。

 80年代半ばまでの自動車やバイクは,それぞれ特有の震動や排気音があって,恋人のように愛することが出来た。あの頃のバイクは何よりも誰よりも恋人で,そのキーを捻り,エンジンを始動すると,愛しの彼女の吐息が聞こえてきて,バイブレーションの刺激をたっぷり感じることができたものだ。ITによる制御技術は,今後はそこまでを実現することを目標のひとつにしなくてはならない。感性情報学の時代でもある。

 現行のフェラーリやポルシェは,笛で造られた音色が強すぎて,面白くないじゃんか。だからこそ今,京都コンピュータ学院で,旧い名車を学ぶ価値があるのだと,再度,主張しておく。空冷Zの永遠のためにも。(永ちゃん=矢沢永吉,,,ん?)

<輪ん>

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