「旧車趣味」などと言うと,古物趣味・骨董趣味の一種のようだが,こと自動車とオートバイに関して言うと,単なる懐古趣味の域を超えるものがある。ここでは音に限って論じるが,あの頃の自動車・オートバイの多くは人間の感性に訴えかけてくる音を発する。これは,その音があるがゆえに,その旧車でなくてはならないという理屈になる。
第二次大戦によって発展発達した各種の技術は,戦後各方面に応用されていき,70年代にピークを向かえ,80年代にひとつの完成を見た。この80年代におけるひとつの完成とは,コンピュータ制御の有無である。それまでは,工学的な技術と、それを駆使する職人的なセンスによって,機械は設計・生産され,感性に訴えかける生き物のような,いわゆる”旧車”が出来ていたのである。 キャブ時代のフェラーリミュージック,空冷ポルシェ911,アルファロメオ,ジャガーEタイプ,アバルト,そして原始的なインジェクションモデルとして,ALPINA,RUF,などに至る。そしてオートバイでは,60年代のトライアンフ&ノートン,70年代のドカティべベルや空冷カワサキZ等,開発者の感性が判断基準の中心をなす例は多い。
自動車関係では,インジェクション制御に代表される,80年代に一般的に実用化されていった技術によって,機械は人間の感性から遠のいていったように思う。これは,当時の未熟なコンピュータ・エレクトロニクス関係の技術が,人間の感性を無視せざるを得なかったからだ。性能さえ向上すればそれで良かった時代である。
そして今,21世紀になって,コンピュータ技術の発展、ITの進化とそれによる各種制御の発達によって,機械を人間の感性に再度近づけることが可能となり始めている。少なくとも四輪自動車の一部は,人間の感性をかなり重要視して設計されている。フェラーリやポルシェ,アストンマーチンなどの一流のスポーツカーの,排気音や諸々の感性的な部分は,ITの進歩のおかげで,急速に発展し始めている。
だからこそ,オートバイにおいては,カワサキ空冷Zを研究する意味があるのだと,主張したい。オートバイは100%,感性の乗り物であるがゆえに。
<輪ん>