カワサキ Z1100スペクター
カワサキのアメリカンモデル,Z1000LTDのゴージャス版として1982年に発売されたスペクター。
シリンダーヘッドやクランクケース,フォークブーツが薄い金色に着色されている。
同時期のスポーツモデルに比するとタンクは小さくなり,シートが前後に長く大きくなっている。シャフトドライブで後輪は16インチ。
写真提供;カワサキ
参考;Z1・Z2の神話–誕生の真実 全記録–
2006年 スタジオタッククリエイティブ
KZ1000LTD
型式名;K1
1982年
エンジンとシャーシはJ系である。カワサキ空冷フラッグシップが,Z系からJ系に移行するとともに,アメリカンはスポークホイールがCSR,キャストホイールがLTD,そしてシャフトドライブがスペクターとなった。K1,K2と続いたが,83年で生産終了。以降,どのメーカーでもアメリカンはVツインが主流となっていった。
水冷GPZ900Rニンジャが発売されたとき,同じインラインフォアのエンジンを搭載したアメリカンモデルがエリミネーターであったが,それも短期間で終了してしまった。
ハーレーは,アメリカのあの直線ばかりの道を走るのには適している。ほぼ直線しかない(ワインディングがほとんどない)国において,ひたすら走り続けるためには,ハーレーのようなディメンジョンが適している。エンジンもゆったりと回るのが良いのだろう。そのハーレーに倣って,すべてのメーカーがVツイン化していったのは,アメリカというマーケットあってのことである。
日本国内ではインラインフォアに勝るエンジンはないと思うのだが・・。
写真提供;カワサキ
参考;Z1・Z2の神話–誕生の真実 全記録–
2006年 スタジオタッククリエイティブ
KZ1000CSR
型式名;M1
アメリカマーケット向けの製品である。基本はZ1000Jであるから,フレームもほとんど同じである。フロントフォークを少し長くし,シート形状を変えて,後輪を小径にすると,ここまでイメージが変わる。
70年代後半に新しいカテゴリーとして「アメリカン」が流行したが,ハーレーの影響が強く,どのメーカーも,アメリカンはVツインへと移行していった。その意味では,最後の空冷インラインフォアのアメリカンであるから,貴重なモデルである。
同時期のカワサキの製品にVN750というアメリカンがあるが,この頃のカワサキのアメリカンは,ライディングポジションこそアメリカンであるが,峠では下手なスポーツを追い越すというくらい,車体ディメンジョンが優れていた。もちろん,このCSRも,基本設計が「J」であるから,名車Rと同じく,良いバイクの一台と言えるだろう。
写真提供;カワサキ
参考;Z1・Z2の神話–誕生の真実 全記録–
2006年 スタジオタッククリエイティブ
カワサキGPz1100(A1,A2,A3)
発売年;1983年
型式名;ZX1100A
120ps/8750rpm
10.2kg-m/8000rpm
カワサキZ1の末裔,空冷フラッグシップ最後の製品である,GPz1100。空冷カワサキ最強のエンジンと言われる。
Z1に派生する空冷エンジンを大幅に改良したJ系エンジンの最後のバージョンである。インジェクションモデルである。
最強のカワサキ空冷エンジンと呼ばれる所以は,排気量が1100ccとなり,シリンダーヘッドの燃焼室形状は半球型となった。このエンジンはきちんとチューンすると,ワンランク上の空冷カワサキが出来上がる。それまでのZ1やZ1000,Z1000J,R,などのチューンドエンジンとは異なる次元になる。
空冷の時代の終焉において,カワサキが方向性を模索していた時期であるとも言われる。また,車体が日本人には大きすぎるようで,「大きくて重い」と酷評されたりする。
身長が175程度以上あれば,忍者GPZ900Rとさほど変わらないような印象を持つとは思われるが,いかんせん,シャーシの設計にはまだまだ時間が必要だったのだろう。この直後には水冷の名車,ニンジャGPZ900Rが発売されたが,ニンジャが前輪16インチ,後輪18インチになったのに対して,GPz1100は,前輪18インチ,後輪17インチである。そのように,ホイールのサイズやシャーシにおいても,暗中模索の時代の中にあったと思われる。
いくつかの理由で車体にはあまり人気がなく,最強のカワサキ空冷エンジンを従来のZ系やJ系に転用するために,エンジンだけが抜き取られることが多かった。車体全体では残存率は少ないと思われる。
パワフルなエンジンであるだけに,経年劣化している個体が多いのは否めない。また,クランクの位相がずれてしまっているものも多い。クランクの位相調整まで含めて,きちんとオーバーホールすると,たいしたエンジンであることがわかるだろう。
昔のインジェクションであるから,レストアして乗るにはキャブに変更することが多い。最近はバイク用のインジェクションシステムも多種出ているから,最新のものに換装すると良いかもしれない。空冷カワサキ最強のエンジンと呼ばれるように,至上最高のエンジンである。
ローソンレプリカの末裔,Z1100Rも同じエンジンを搭載しており,こちらはキャブ仕様である。
上の写真はシリーズの最初のグループであるA1。以降,A2(下の写真),A3と続く。A3は特に生産台数が少ない。
カワサキGPz1100(A2)
写真提供;カワサキ
参考;Z1・Z2の神話–誕生の真実 全記録–
2006年 スタジオタッククリエイティブ
日本もとうとう熱帯雨林の気候になってしまった。
毎日夕立ちが降るので,走りに行くこともままならない。
そこで,夜中になるとビール片手にバイクと語り合っている。
色々なバイクに浮気して,ぐるっと回って帰ってきても,やはりカワサキZは素晴らしいことがわかる。後のJ系も素晴らしいのだが,世界を席巻したkawsaki Z1の,基本設計の良さ,デザインの良さ,etc.
日本の峠道を走りまわっていると,J系のボディよりも,一回り小柄なZ1・Z2とその後継車の方が良いと感じることがある。そして,オリジナルの車体を再度しげしげと眺めながら,カワサキ空冷Z1,Z2について考えながら,雨の空を恨みつつ,ビールを飲み干す・・・。
週末の夕方,京都市内からぐるりと回って帰還する,ほんの数時間のライドである。
京都から大津に抜ける国道1号線,小倉百人一首はじめ多くの歌に詠まれている逢坂山(逢坂の関)から大津に出て,そして琵琶湖西岸を北上すつ。湖西道路の終わるところ,安曇川の手前で左折すると,山を越えて朽木に至る林道に至る。林道に入る最後の平地には,まだ田園が広がり,そこには地元の人以外は誰もいない。一面の緑,水田地帯である。
そこから朽木方面へ抜ける林道に入ると,道路は舗装されているものの一車線。がけ崩れの石や岩が路上に散らばったままになっている。低速でヒョイヒョイと路上の石を避けながら,曲がりくねった山道を登っていくと,峠付近に長いトンネルがある。照明が無いトンネルが最後のところでカーブになっており,滋賀県側から入ると石清水に濡れた長い闇の中を走りぬけることになる。
トンネルを抜けると,そこは,ちょっとした深山幽谷の光景が広がる。
そのような小道を駆け巡るためにも,美藤さんのZ2は素晴らしい。小回りが利く上に,100km+の速度まで瞬時に加速し,嗚呼日本の山野にはこれこそ,と思うのだ。
技術的には,元来バランスの良いオリジナル車体を,さらに高度にバランスよく仕立て上げる,ということだろう。APのブレーキの減速加速度と全くシンクロして,ショックが沈み込んでいく。アクセルの開度に呼応して回転が上昇する。5000回転あたりからは空冷カワサキ独自の交響曲である。集合管の響きは日本演歌のコブシかカンツォーネか。掻き立てられ,盛り上がる。エンジンが唄い,車体はワインディングを左右に踊る。
自分でバイクをあれこれいじってみるとわかるのだが,一見あまり刺激が無いようにも見えながら,高度に各パーツのバランスがとれた車体を造ることはとても難しい。大抵の場合は,どこかが突出していて,それが刺激的であることはあっても,全体としてのまとまりに欠けるということが多いのである。市井のマニアどころか,俄かプロショップにも到底達することのできないレベルを,BitoR&Dは実現していると思う。やり過ぎもなく,足らないものもない。ちょうど良い,ということか。
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関
蝉丸(平安時代の歌人)
小倉百人一首より
カスタムのポイントを思いつくまま列挙。
エンジン
空冷Zのエンジンは,オーソドックスな並列4気筒ツインカムエンジンである。チューンすると,凄まじい迫力と官能的な振動やサウンドを発するようになるが,ノーマルでもまったく悪くない。カスタムする場合は,最初から1000ccのモデルを選ぶと,ボーリング費用も廉くつく。バルブの当たり面を調整し,カムチェーンの弛みを取るだけで,他に比類ないエンジンを堪能できる。
キャブ
FCRが一番良いと思う。少々高価であるが,いたずらに大径を選らばず,小径で十分だ。1100ccを境に,それより小排気量なら33パイ,それより大排気量なら35パイで良い。
ショック
これは前後ともきちんとしたものにしたい。オリジナルなら,きちんとオーバーホールする。これもいたずらにハードなものにせず,しなやかに動く状態を維持する。
フロントフォークは38パイあたりがちょうど良いだろう。
ホイール
ノーマルの鉄リムは重いので,アルミリムに交換するか,キャスト・マグネシウムを奢る。当時物にこだわる気持ちは筆者にもあるが,走りのためのここ一番の勝負バイクは,現代のパーツを優先する。
ブレーキ
ノーマルのブレーキはプアなので,最低限度としてAPの2ポッドやブレンボの鋳物の2ポッドあたりに交換したい。リアも当然ディスクブレーキにしたい。ブレーキというのは,止まるためのものではなくて,最適のスピードに減速するための機能がある。指一本の力で微調整できることがポイントである。
マフラー
集合管に限る。ノーマル4本マフラーのクラッシックな音とその姿態は賞賛するが,実際に走るという段になると,ノーマルよりも軽い集合管を。空冷Zの集合管の響きは心にビンビン響いてくる。ヨシムラの手曲げ鉄管が有名だが,リプロもので充分だし,チタンを奢れば車体の振り回しがとても軽くなる。音質は,鉄のマフラーが最上である。
そこそこ費用はかかるけれども,四輪車(特に外車)の改造に比べると廉いものだろう。基本は,ノーマルでも良いから,きちんとオーバーホールすることである。
一台のZは,人生の良き相棒となる。無茶な改造は極力控えて,必要なところを良いものに交換して,大切に維持していきたいものだ。
空冷カワサキ,その中でもローソンレプリカ系は,歴史に残る名車である。Z2が高度経済成長の日本の大衆路線の最高峰,Z1が外国通にとっての憧れの最高峰とすると,サーキット・エンスー系の最高峰は,ローソンレプリカ,Z1000Rだった。
二本サスの伝統的なフォルムで,フレームは軽量化された肉薄パイプ。空冷Zの発展型のJ系エンジンを搭載。カムはZ1000Jよりは多少ハイ。カーカーのマフラーが標準で付いてくる。
ノーマルのままでも現代の道路で十分走れる。Z1Z2系のブレーキは今となっては多少プアだが,J系は,とにかく,ストック状態で,きちんとまとまっているのである。Z1000Rは現在は高値で取引されているが,あまり知られていないJ系はマーケットに結構残っていて,どちらかと言えば廉価である。最高値のZ1000R1と,同程度に希少なZ1100R,そして,Z1000R2の人気が高くて,他はあまり売れないけれども,安楽に走れて長距離で疲労しない現代のバイクにくらべると,乗ることがスポーツであることを教えてもらえるだろう。
写真は,Z1100R。Bitoチューン,異次元の彼方へと飛んでいける。美藤さんのチューンは素晴らしい。