本年の初めから,著書について,どういう意図で執筆したかを解説します。
「基礎数学のABC」1
第4章 初等幾何の体系
第3節 図形と計量
そもそも,この本に「初等幾何」を掲載するべきかどうかは著者の間で議論になりました。
- 掲載する理由:第3次ゆとり教育(2003年度学習指導要領)で高校へ上がってきた部分が多く,論証の部分などは中学校で扱わなくなった。その上,就職試験や公務員試験で扱う。
- 掲載しない理由:大学で扱わない。大学での学習のどこにつづくか不明
結局,就職試験や公務員試験の対策の必要性から著者全員が納得したのである。公務員試験でおく出題されるのは,初等幾何以外には,「第1章 第2節 命題と論証」があげられる。
さて,公務員試験でなぜ,初等幾何がよく出題されるのか? 特に「図形と計量」の部分はよく出題される。
- 多角形の面積を求める問題
- 相似形の問題
ここから推定されるのは,公務員は建物や土地の図面を見ることが多いので,図形の知識が必要なのではないかということである。事実,たまたま私はある公務員の方と話をしたことがあるが,その方は土地の登記をずっと扱っているというのです。測量して面積を求めることなど日常の仕事なんですね。なるほど,相似形などもわかっていないと,面積を求めるのは難しいので,そういう知識を問うていることがよくわかりました。
著者の一人に当時,高等学校の教員がおられました。その方の意見で,三平方の定理(ピタゴラスの定理)を重視した構成にしました。三平方の定理を知らない大学生や大卒者が多いことに驚いていました。三平方の定理が重要なのは以下の点です。
- 平方根の図形的理解
- 座標幾何で,2点間の距離を求める→円や球の方程式
- 余弦定理の理解→幾何学的内積の理解
これらを理解できないことは高校数学のベクトルの理解が壊滅的になります。事実,そういう方はたくさんいるのです。でも三平方の定理は中学校でやるはずです。ここで高等学校の教員の共著者からすごい発言が出てきました。「三平方の定理は中学校三年生の最後の方で学習する。高校入試まで期間が短く,生徒の習熟度が低いため,できるたけ出題しないようにと教育委員会からお達しが来るんですよ」と。共著者一同驚きましたが,三平方の定理が重要であるにもかかわらず,「中学校でやっていない」と大きな顔をする大学生や大卒者がたくさんいることへヒントになりました。いずれにしても,三平方の定理は理解しやすいように工夫しました。
この節は,高等学校の三角比で扱われる正弦定理や余弦定理,中学校から高等学校へ移ってきた正多面体や相似形を扱っています。どうも数学の理解がたらないと言う方はこの部分から学習し直してはどうでしょうか?
【リンク】
ゆとり教育で不足した学力はどこで補完するのか ~社会人になるために~ | Vol.20 | アキューム