今回も著書を横断的に,2次関数と平行移動,2次方程式と因数分解というテーマで扱ってみたいと思います。
第1章 1次関数,2次関数 第2節 2次の変化と方程式
第2章 数と式 第2節 多項式
第6章 座標幾何 第1節 直交座標
1 数学トラウマは高等学校でどう作られるか?
共著者の先生が女子大で数学をおしえておられたのです。執筆当時にその先生にご意見を伺うと,「学生たちは因数分解がわからないのに,大学で数学を学ぶことはできるのですか?」という質問をし続けるそうです。高等学校の数学の最初で学習する「数と式」で難しい因数分解を体験して,その後の数学のつまづきを解消できず,トラウマだけがのこったのでしょう。そしてその先生が「この本では因数分解を知らなくても2次関数や2次方程式がわかるように構成したい」という強い願いから,本書では第1章では2次関数や2次方程式を解説して,あとから因数分解を解説するという手法をとりました。
まず高等学校の混乱ぶりを分析しました。とどのつまりは以下の通りです。
y=f(x)…関数
f(x)=0になるxの値を求める←→x軸との交わりを求める…方程式を解く
ここがはっきりと語られないので,学生たちの混乱が走るのですね。そして,方程式を解くときに,コンピューターで解くときは,xを数値的に変化させて0になるまで代入しまくって解を見つけるのですね。コンピューターは因数分解なんかしません。だから,この展開はむしろ実用的であると考えました。
2 放物線と2次関数
できるだけ,微分・積分につながるように,放物線を扱うようにしました。ここで注意するべきは放物線には厳密には2種類あるということです。
- 横軸が時間tで縦軸が距離y
- 横軸が時間xで縦軸が距離y
後者の方は厳密に言うと媒介変数の時間tが介在してxとyが2次関数になりますので,第1章で扱うべきではないと考えました。では,どうするのか?
三省堂の「数学I」の教科書では,「図形の方程式」の単元を座標幾何として扱っていたのです。これが大いに参考になりました。ちなみに,座標幾何とは解析幾何の別名です。
3 座標幾何
高等学校の数学には伝統的に初学者にはわかりにくい単元があります。
- 関数あるいは2次関数
- 図形と方程式
これを少し模式的に整理しましょう。
- 関数あるいは2次関数…xが入力でyが出力になる関数。
- 図形と方程式…xとyは対等で方程式で結ばれる
という違いがあります。これですっきりとしました。この概念に至るまでに何人ものと方と議論しました。高校数学が理解不能になる理由の一つでもあります。この根源は中学校にあります。中2で履修する一次関数において「関数と方程式」とあるんです。連立方程式を一次関数を同一視する考え方を植え付けいています。これは,立場がちがう見方をしているものなので,同一視するのは高等学校での学習には弊害になっているようにも思います。
座標幾何に話をもどしましょう。当時,「基礎数学の123」と「基礎数学のABC」は同時進行で製作していました。「基礎数学のABC」の方には初等幾何を掲載することになっていましたので,その続きで解析幾何をベクトルとの関連で扱うことにしました。そこで,解析幾何のうち,座標変換の部分だけを扱うので,「座標幾何」と名称で本書では扱うことにしました。そうすると,直交座標と極座標(複素数平面)という形で整理できることがわかったんですね。
4 2次関数の頂点を見つけて平行移動?
高等学校の数学の2次関数の指導といえば,ひたすら,頂点をみつけるために平方完成して平行移動ばかり。あの平行移動の説明がわかりにくいんですよね。でも,物理学の立場でいえば,単なる座標変換に過ぎないのです。そこで,第1章では平行移動は扱わず,第6章で扱ったんです。
それが,p251の「オートバイのダイビング」です。これって,映画「マトリックス リローデッド」の冒頭シーンですよ。トリニティがバイクで突っ込んでいくあれをイメージしてつくった例題です。p256以後の「座標と運動」で媒介変数の扱いを自然に導入していきます,