「基礎数学の123」が書かれた当初のことを思い出して,どういう意図で書いたかを述べたいと思います。今回は以下のところです。
「基礎数学の123」1
第5章 指数・対数関数,三角関数
第2節 三角比と三角関数
1 三角比へのこだわり
三角比の定義ははっきりいってわかりにくい。なぜ,そんなものを定義するのかがわからないからです。ポイントは以下の点にあります。
・直角三角形の相似の条件は角度が一つきまればいい
・直角三角形は斜辺以外の2辺は「角度に接する辺」と「角度から離れた辺」に区別される
以上のことから,斜辺の長さを1に規格化すれば,当然,2辺の長さはけっていされるのです。「角度に接する辺」をコサイン,「角度から離れた辺」をサインと呼びます。ということから,ややこしい説明を抜きにして,単位円のx座標をコサイン,y座標をサインとして定義して始めました。「基礎数学のABC」の第4章もご覧ください。
2 n倍角の公式からべき級数展開へ
さて,私がここでとった方法は,日本の和書では珍しい方法です。それは,2倍角の公式,3倍角の公式と増やして,n倍角の公式を導きます。本書では紙面の都合で数学的帰納法をつかった証明は与えていませんが,結果は簡単に推定できます。この係数がマイナス部分を除いてはパスカルの三角形になるんです(p.222~p.224)。
ここでθが小さいときはsinθ≒θ,cosθ≒1になることを利用してnθ=αとおくとなんと,コサインとサインのべき級数展開が導けます。ただし,無限数列の和が収束する(一定数になること)ことの証明も与えていません。しかし,私はべき級数展開にこだわりました。
理由は以下の通りです。
コンピュータ内部では,コサインやサインはべき級数展開で計算するからです。
べき級数展開の結果を覚えておけば,微分や積分も容易に理解できる
オイラーの公式へ移行がスムーズである。
無限数列の和の収束の議論の重要性を感じることができる。
この流れの原点はハイラー・ワナーの「解析教程 上」から学びました。
3 波の式
通常の数学の三角関数では波の式は扱いません。これは全くおかしな話です。物理学や工学の分野では三角関数と言えば波の式です。私のこだわりでは
y=sinθ
では一般性はなく
y=Asinωt
の方が一般性があると考えています。物理量としては振幅のAの部分があり,波打って変化するのはサインの方です。おまけに角度が変化するのではなく,角振動数と時間の積が変化するんですね。ここは強調しました。なお,kXととして各波数と位置の積もとりあげています。また,この当時のゆとり教育の影響で,三角関数の積和公式や和積公式も教えられていなかったので,ここでは掲載しています。
【参考文献】
この本でも三角関数のべき級数展開を扱っています。