「ん」の起源は奥が深い。

 以前,「漢字の読み方–日中韓の比較」という記事で取り上げたように,中国語では1文字1音節ですが,日本語では2音節以上で発音されるものが多いわけです。
 たとえば以下のようになります。

(1)-m 三 sam  
 mの部分を「む」と書く前の段階に「ん」と書いた時代もあるようです。この「む」は「三位一体」を「サンミイッタイ」と発音したり,「陰陽師」を「オンミョウジ」と発音したりすることにその痕跡はあります。
 また,「む」は「う」に変化することもありますね。たとえば,阪急の十三(じゅうそう)とか。

(2)-n 万 man
 nのところを表す仮名はもとは存在しなかったんです。基本的に,nは,「ん」ができるまでは「に」と表記したようです。丹波を「たには」と書いたのはその現れです。
 「縁」は「えにし(「し」は強意の副助詞)」と書いたり,「銭」は「ぜに」と書いたりしますね。これらは訓読みと考えられていますが,どうも音読みのようですね。もちろん,昔の人は,「たには」は「tanpa」,「えにし」は「yenshi」,「ぜに」は「jen」と発音したと思われます。

(3)-ng 京 kyong
 ngを表す記号も,空海などは考案していたようです。こういう記号があれば,「京都」は「kyong du」と発音したでしょうし,「京阪」は「keng fan」と発音したでしょうね。実は,平安時代の人は「きょうと」の「う」はngの発音の代わりに表記したし,「京師(けいし)」の「い」もngの発音の代わりに表記したことをわかって発音したようです。だから,「東西」は「とうさい」と書いて,「to ng sa i」がngに引っ張られて「to ng za i」つまり,「とうざい」になったようです。

 本書ではこのような意味のことが書かれています。
それで謎が解明しました。
京都「きょうと」は「キョート」と発音するし,
通り「とおり」は「トーリ」と発音して,どちらも同じ伸ばす記号であるのに,「う」と「お」の使い分けがあるのはおかしいと思っていました。しかし,昔は発音が明確に異なったんですね。 ちなみに,「通じる,つうじる」は「tsu ng shi ru」と発音していて,「し」が「じ」になったようです。
【出典】
Amazon.co.jp: 中国語概論: 藤堂 明保, 相原 茂: 本

 以下の歴史的仮名遣で[フ・ク・ツ・チ・キ]で終わるものは本書には関係がないので,記述を省きます。
(4)-p 十 sip
(5)-t 七 sit
(6)-k 六 rok

【目次】
第1章 「ん」の不思議
第2章 「ん」の起源
第3章 「ん」と空海
第4章 天台宗と「ん」
第5章 サンスクリット語から庶民の言語へ
第6章 声に出して来た「ん」
第7章 「ん」の謎に挑む
第8章 「ん」の文字はどこから現れたか
第9章 明治以降の「ん」研究
第10章 「ん」が支える日本の文化

【ブログ内参照】
漢字音の研究 その1 | オブジェクト脳@kcg
漢字の読み方–日中韓の比較 | オブジェクト脳@kcg

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